一緒に寝る - ハヅキ


 新年の宴も、夜が更けるにつれてその意味を見失い、ただの酒宴と成り果てていた。
 酔いつぶれる者、騒ぐ者、それに絡まれる者、どこからともなく現われた赤い悪魔に連れ去られる者、様々だ。
 酒を飲まない魔王がこっそり会場を抜け出したところで、見咎める者など残っていなかった。
 一人を除いては。

「どちらに行かれるんですか?」
「あんたの部屋」
 廊下を歩く。すぐ後ろからついてくる足音の主を確かめるまでもなく、ユーリは口元が弧を描く。
 自分の歩幅にぴったりと合わせて歩く軍靴の音は、聞き慣れたものだ。
「俺を置いてですか?」
「言わなくても、ちゃんと着いてきてるだろ」
 石の廊下は冷えるが、ビロードのマントは重くて温かい。重さと温かさは似ていると表したのは誰だったか。それはあながち外れていないなとユーリは思った。
 勝手知ったる部屋の扉をあけ、中に足を踏み入れたところでようやくユーリは後ろを振り向いた。
「良いんですか、抜けてしまって?」
「もう十分に務めは果たしただろ。ここからは、魔王じゃなく渋谷有利の時間」
 外の雪が月明かりを反射して、灯りなどなくても、互いの表情が見える程度には明るい。
 表情など見えなくても声音や雰囲気で分かるのだが。
 咎める気もないくせに、口先だけで確認をしてくる相手へと、それでも律儀に返事を返してしまうのは、ユーリ自身が新年を迎えた喜びに少し浮かれてしまっているからかもしれなかった。
「あけましておめでとう、コンラッド」
 広間で告げた挨拶と同じ言葉は、ただ一人へと向けられているだけで先ほどよりも甘さを含んでコンラートの耳に響いた。
「はい、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「ああ。よろしくな」
 毎年変わらない特別な挨拶を交わし、互いに顔を綻ばせた。

 背伸びをするユーリの求めを察して、少し腰を屈めたコンラートが唇を触れ合わせながら声を出さずに笑った。
「姫はじめ、ですね」
「あんた、どこでそういう知識仕入れてくるんだ」
 マントの止め具を外すと、それは重力にしたがって床へと落ちた。皺ができるかもしれないが、あの宴会場の惨状を思えば誰も疑わないだろう。
「姫って、字面だけは可愛いのにな」
 身も蓋もない言い方をしてしまえば、ただのセックス。年明け早々に、盛っているだけ。
「良いじゃないですか。身体を重ねることは、愛情の確認みたいなものです」
 ただの快楽を求めてそういった行為をすることも知っている。けれど、自分達に限ってはそうじゃない。
 重さは、温かさだ。
 ベッドへと縺れ込みながら、圧し掛かってくるコンラッドの体重を受け止めて、ユーリはその温かさに目を細めた。

(2010.01.01)

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