前日から王都に降り積もった雪で、血盟城は朝から一面銀世界。
雪景色というやつは、見てる分には綺麗なものだが、雪解けの水を含んだぬかるみやら、何度も踏みしめられて凍りついてしまった地面やらで足元がおぼつかなくなるやらで非常に厄介な面もある。
よって、いつもの早朝ロードワークの予定を変更して早朝散歩だ。
白い霞のような吐息を洩らしながら、キンと冷えきった空気が漂う中庭を、コンラッドに手を引かれそぞろ歩く。
エアコンやストーブなど現代日本の素晴らしい文明の利器に親しんだおれが、この異世界の冬をさほど厳しく感じないでいられるのは、きっと繋いだ手の温もりの所為だ。
転ぶといけないからとかいって、しっかり指を絡めて手を握ってるのだ。
いつもは一歩下がって歩く過保護な護衛が隣を歩いてくれてるのが、実は嬉しかったりする。
…なんて思ったのは、絶対に内緒だ。
「おれは体温高いんだからさ、そんな気を使わなくても平気だって!」
照れ隠しにぶちぶち言ってみれば、コンラッドはきょとんと目を見開き子首を傾げた。
「…俺と手を繋ぐのはいや?ユーリ」
…何故だろう、心なしか肩を落として悲しげな彼が、まるで飼い主に叱られた大型わんこに見える!!
「…そ、そんな、こと…ない!」
慌ててきっぱりと言えば、彼の銀の星が鮮やかに煌めき、楽しそうに微笑みを浮かべた。
よかった、機嫌を直したか…と安堵していたら、コンラッドはすっと長身を屈めた。
ちゅ♪
額をかすめた柔らかい唇の感触に、彼がキスをしたのだと悟るのに数秒かかった。
「そろそろ部屋に戻りましょう?朝食の用意が出来てるだろうし」
爽やかに笑うコンラッドに、真っ赤になって金魚のように口をぱくぱくさせていたおれが力いっぱい怒鳴りつけたのは、言うまでもないだろう。
「どさくさまぎれに、なにしやがるこんのタラシ野郎――!!」
烈火の如く怒るおれを軽くいなして笑う憎たらしい護衛に更に怒りを倍増し、盛大に文句を言いながらおれは部屋に戻った。
全く、こんなどうしようもない奴の主人をやれるのは、世界広しと言えどもおれくらいなもんだ!!
そんなおれたちを、物陰から生温かく見つめていた視線に、この時のおれはちっとも気付いていなかった。
「げーか!!駄目ですってば、石入り雪玉は流石にやばいですって!!」
「どうしてさ、あの傍迷惑なバカップルには丁度いい目覚ましだろ?
あぁ心配しなくてもいいよ、狙うのは渋谷じゃないからさ!
…こんな朝っぱらから、イチャイチャイチャイチャと人の親友に手をだしやがってあんのエロ獅子…!!」
じたばたと暴れる村田を懸命になだめながら、ヨザックは思った、俺、こんな所でなにやってんだろ…と。
季節は冬
しかし魔王(おれ)の周りはこのように常に賑やかで(別の意味でも)暖かな春の気配に満ちているのだった。
(2010.02.28)
恋華
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