拍手1
主であるユーリを寝室へと送り届けるのは、最近ではすっかりコンラートの日課だ。
護衛ですから、と理由をつけて浴室で一日の疲れを落とす間も扉の外で待ち続ける。本当は背中を流して差し上げたいのだが、申し出はいつも断られてばかりだ。
『試しにお付き合いしてみましょうか』
そんな風に話を持ちかけたのはつい先日のこと。
お試し期間で終わらせるつもりは毛頭ないのだが、単純で深く考えることがニガテな主にはそれぐらいの軽い調子で押し切るのが丁度良い。
私のことが嫌いですか?と畳み掛けるように聞いたのは、コンラートの狡さだ。
自分が向けるものとは少し違うかもしれないが、ユーリが自分に好意を持っているのは確かで。優しいユーリは、好意を持った相手を拒むことができない。
利用するようで申し訳ないが、そうまでしても欲しいと思ってしまったのだから仕方がない。
自分勝手な言い訳を胸の中で並べていた護衛は、浴室から出てきた主へと笑みを向けた。
「よく温まりましたか?」
「やっぱ風呂はいいね、疲れがとれる」
「それは良かったですね。髪をちゃんと乾かさないと風邪をひいてしまいますよ」
髪をしっかり拭いてこなかったらしい。水滴が零れそうな髪を、コンラートが丁寧に拭いてやる。
ふんわりと香る石鹸の匂いが鼻を擽る。
抱きしめてキスをしたら、ユーリはどんな反応をするだろうか?
「はい、もう大丈夫です。ゆっくりお休みになってくださいね」
ぽんぽんと子供をあやすように軽く頭を叩いてから、名残惜しいが手放す。
せっかく「お付き合い」まで漕ぎ着けたのだから、焦って逃がすわけにはいかない。
「おやすみなさい、ユーリ」
「おやすみ、コンラッド」
そして護衛は、今日も主が床につくのを確認してから部屋を後にするのだった。
(2009/07/22〜2009/08/03)