拍手2


「なぁ、コンラッド」
 もぞもぞとベッドに入り込み横になった主を確認してから、明かりを消す。
 扉の前で寝ずの番をする兵士へと引き継げば、今日もコンラートの仕事は終わりだ。
 いつも通り出て行こうとした護衛を、ユーリは呼び止めた。
「どうかされましたか?」
「なんで俺なの?」
 質問の意図が分からず、首を傾げたコンラートへとユーリは言葉を続けた。
「お付き合いする、って言ったじゃん?普通は可愛い女の子とか、綺麗な女の人とするものだろう?キスしたりとか、他にもイロイロしたりとか」
 イロイロの当たりだけ声が小さくなるのは無意識か。
 そういうことに耐性がないのだろう。
「いや、なんかこうコンラッドの言う付き合うっていうのが、よくわかんなくて。ほら、俺って誰かと付き合ったことなんてないし」
 言っていて居たたまれなくなってきたらしいユーリは、顔を隠すようにシーツを引き上げた。
 その真っ直ぐで真面目な性格なせいか、一人で悩んでいたらしい。
 混乱している様子が良く分かる。
 コンラートは思わず零れそうになる笑みを、主の機嫌が損なわれる前に引っ込めた。
「お付き合いはお付き合いです。深く考えなくていいんですよ。あなたはそのままでいてください」
 答えながらベッドの端へと腰掛けた。
 ギシリ・・・
 小さな音を立ててベッドが軋む。
 シーツで隠されているユーリの表情は見えないが、気配から緊張していることが伝わり、コンラートは労わるように髪を撫でた。
「あなたが一緒に居てくださるだけで今は満足です」
 そう、今は。
「追々、色々していきましょうね」
「色々ってナンデスカ・・・」
 不安たっぷりな様子のユーリの疑問を、コンラートは黙殺した。
 撫でていた髪を一房手に取り、そっと口付けを落とす。
「さぁ、ゆっくり眠ってください。明日はお天気がいいそうですよ。キャッチボールでもしましょうか」
 デートですよ、と冗談めかして。
「約束だからな」
 主の言葉はデートではなく、キャッチボールに対してだと分かっているが、コンラートにとってはそれは些細な問題だ。
 一緒にいる。
 今日も、明日も。
 少しずつそれが当たり前になればいいと思う。
 この主の気持ちが、出来れば自分と同じものになればいいと願いながら。
「おやすみなさい、ユーリ」
 やがて、小さく聞こえはじめた寝息を確認し、コンラートはそっと部屋を後にした。


(2009/08/04〜2009/08/11)