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「……っん」
くるしい。
心臓の音が耳に煩かった。
縋りつくように背へと這わせた指先に力を入れた。爪を立てないように指の腹で。
「大丈夫ですか?」
自分をこんな目に合わせている男が問いかけてくる。
大丈夫なんかじゃない。
全てを呑みこんだ場所が熱く脈打っていた。
くるしい。
けれど、嫌じゃない。
抱き寄せた身体から伝わる早い鼓動だとか、指に感じる汗だとか、首筋にかかる吐息だとか、そういうものの一つ一つが、相手も同じように余裕がないことを教えてくれるから。
一緒にロードワークに出たところで汗一つかかない。息も乱さない。いつだって涼しげで。分別のあるオトナな顔をして。
そういうところも好きだけれど、こうやって余裕のない姿の方がいい。
肩に顔を埋めていて、表情はわからないけれど、きっと同じ顔をしているはずだ。
「ユーリ?」
心配そうな声。
こんな時まで気遣わなくていいのに。
「だいじょ…ぶ」
繋がったまま、身じろぎすることさえ堪えて待っていてくれるのも愛だとは思うけれど。
今はもっと別の愛が欲しかった。
「考え事?」
「あんたのこと」
顔を上げると、熱に浮かされたような瞳とぶつかって、綺麗だなと思う。
自分だけを映しているこの瞬間が、たまらない。
「愛してるよ」
「好き」と告げるのが精一杯だったはずが、いつの間にかなんのてらいもなく愛を囁けるようになった。
「俺も…」
愛してると続くはずだっただろう言葉を遮り、唇を重ねた。
そんなこと知ってる。
愛されているのは紛れもない事実で、けれど、比重で言えば自分のほうがと思ってしまうぐらいに愛しているからこそ、くやしくもある。
「……こいよ」
もっともっと。
求めて欲しい。
強く抱きしめて、腰を微かに揺らす。
じんわりと繋がった場所から甘い官能が背筋を這い上がっていく。
この男が、他の何も考えられないぐらい自分に溺れてくれればいいと思った。
(2009/10/07〜2009/10/13)