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 エプロンって良いものだな…と、コンラッドは奥さんの後ろ姿を眺めながら思った。
 服が汚れないのはもちろんだが、見た目も良い。
 いま見えるのは後ろ姿。もちろんどうせならば前から、愛しい彼の顔が見えた方が良いにきまっているけれど、彼はいま自分のために料理を作っているのだという事実を自覚すると、後ろ姿もたまらなくなる。
 奥さんとは言ってもユーリは男だ。年齢的に、まだ男の子と言った方がしっくりくるかもしれない。
 でも、Tシャツから覗くすっきりとしたうなじや細い首、半袖からのぞくやはり細い腕。残念ながら今日は短パンではないので隠れている足も、ジーンズのシルエットだけで細くて綺麗だ。
 そして、身につけているエプロン。そろいで買った黒のシンプルなそれは、後ろをリボンにしてとめられていた。彼が自分で結んだせいだろう、縦になっているリボンも、紐によって締め付けられ細さを強調する腰も、少しサイズが大きいのか肩から落ちそうになっている肩紐も、すべてがコンラッドを幸せな気持ちにさせた。
 見えない表情は、きっとすごく真剣だろう。自分がどれだけ見つめても気づかないぐらい。
 手を抜いていいんですよ、と以前告げたら、おいしく食べてもらいたいからダメだと真剣な顔で否定された。
 確かに食事はおいしいにこしたことはない。でも、料理の最大のスパイスは愛情だと、どこかのだれかも言っていて、自分も確かにその通りだと思う。
 ユーリの料理がおいしくなかったことなどないのだから。

 いきなり驚かせて怪我をさせないように。
「ユーリ」
 彼が包丁を置いたのを確かめてから、そっと近づいて腰を抱いた。
「うわっ、びっくりした。お腹空いた?」
「少しだけ」
 確かに空腹間もあるけれど、どちらかといえば料理よりもあなたが食べたい、なんて言ったらどんな顔をされるだろうか。
 今日の夕食はカレーらしい。
 割入れられたルーが鍋の中で溶けて、良いにおいをさせていた。


(2010/04/23〜2010/05/29)