拍手19


《パティシエ次男》



 接客の邪魔にならないように、隅に置かれた一人掛けの小さなテーブルセットに座っていた。
 頬杖をつきながら、広くない店内をぼんやりと眺める。
 入り口がある壁は一面がガラスになっていて、たくさんの陽が降り注ぐ。店いっぱいに広がる甘い香り。焼きたてのスポンジの、クリームの、果物の、いろんな匂いが混ざりあい鼻を擽る。
 家では絶対にでてこないような、お客様用のティーカップからは湯気が立ち上って、目の前の白い皿にはお気に入りのフルーツタルト。
 時折訪れるお客さんは、みんな笑顔。接客するコンラッドも笑顔。
 お客さんの選んだケーキを1つずつ丁寧に箱につめていく手はとても大きいのに繊細で優しい。

「コンラッド、手を貸して」
「はい?」
 お客さんが途切れるタイミングで声をかけてみた。言われるままに差し出されたコンラッドの手を、両手で握ったユーリは、そのまま顔の前へと持ち上げた。
 観察するようにじっと見つめ、時に裏返し。
「どうしたんですか?」
「うん、やっぱり!」
 そのまま、手のひらへと鼻先を押しつけられてしまえば、自然と唇も触れることとなり、コンラッドの手がぴくりと動く。
「!?」
「あんたの手って甘い匂いがするよな」
 ぺろりといきなり舐められ、味まで甘いのかと思ったと笑うユーリに返す言葉が見つからず。コンラッドは取り返した手で口元を覆った。


(2010/05/30〜2010/07/21)