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《パティシエ次男》



「コンラッドのケーキは、いつも美味いよな」
 コンラッドの好意でさせてもらっている新作ケーキの試食は、恒例となっていた。
 年中置いてある定番品とは別に、季節のフルーツを使った季節毎のケーキと、星座をモチーフにした月替わりのケーキ。
 どうやったらそんなにアイデアが浮かぶんだろと不思議になるほど、コンラッドの作るケーキはいつも多彩だ。
「もうちょっと、いろいろ言えたらいいんだけど」
 黄色が綺麗なマンゴーのムースは、一口食べたら頬が緩んだ。
「ユーリはそのままで良いんですよ。いつも美味しそうに食べてくれるから、自信が持てます」
「美味しそうじゃなくて、美味しいの」
 上に乗っている夏ミカンの、マンゴーとは異なる黄色も綺麗だ。食べるのが勿体無いのに、手と口が止まらない。
「ごちそうさま」
 あっという間に平らげて両手を合わせると、コンラッドが紅茶のお代わりを注いでくれた。

「ユーリ、口元」
「へ?」
 どこに付いているのか教えてくれればいいのに、いつもコンラッドは手が先に出る。口端を人差し指の背で拭われた。
「ほら」
 食べるのが下手なわけじゃないと思う。普段は大らかなお袋だけど、行儀なんかには結構厳しかった。
 たぶん、コンラッドのケーキが美味しいのが悪いんだ。
 見せるように目の前で持ち上げられた大きな手の、美味しいケーキを生み出す指の上で、黄色いムースが甘い匂いをさせていた。
 恥ずかしいから止めてくれと言ってみても、コンラッドはいつもそれを食べてしまう。食べ物が勿体無いっていうのは分かるんだけど、さすがにちょっと…いや、かなり恥ずかしい。
 だから。
「……っ、ユーリ?」
「だって、あんた食べちゃうだろ?」
 いつも穏やかに微笑んでるコンラットが、驚く姿なんて珍しい。
 食べられる前に…と、首を伸ばして指に食いついた。小さい欠片は、それでも口の中でしっかりとマンゴーの味がして、とても美味しかった。


(2010/07/22〜2010/08/30)