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「好きです」
言われた言葉の意味が理解できなかった理由の半分は、口にした男のせいだったと思う。
名付け親で、バッテリーで、護衛で、親友。
そんなポジションを、もう何十年と守ってくれていた。
……はずだった。
「えっと……」
「好きなんです、ユーリが」
理解できないおれのために言い直す男は、そのすべてを壊そうとしているくせに、ひどく幸福そうに笑った。
「どうして」
「理由なんて俺にもわかりません」
甘やかされるままに、たくさんわがままを言ってきた。
「いつから」
「ずっと昔から」
それさえもすべて受け入れてくれる、彼がいる空間は、いつだって心地よかった。
たくさんの時が流れた分だけ、様々なものが変わった。
まったく同じものを探すことが難しい中で、唯一変わらないのが、身近にあるこの存在だ。
「なんで、急に」
「急ではありませんよ。いつか言おうと、ずっと思っていましたから」
その理由を、考えたことがなかった。
「おれ、考えたことなかったよ」
「知っています」
なぜ、どうして、いつから、どんな風に。
様々な思いがぐるぐると頭の中を渦巻く。
ずっと傍にいた男は、そんなおれの思考の一つ一つまで理解しているかのように、ただ落ち着いた笑みを浮かべている。
返事を聞かないのは、分かっているという自信からなのか。
「フラれたら、どうするつもりだったんだよ」
「振るつもりなんですか?」
考えなかったのは考える必要がなかったからだ。
ずっとそこにあった感情は、わざわざ名前を付ける必要などなかった。
自分が知らぬうちに気付かれていたのかと思えば腹立たしくはあるが、それだけ待たせてしまった申し訳なさもある。
「ずいぶん、遠回りした気がするな」
「それも楽しかったですよ。あなたとならば」
右手をとられた。
指を絡め、手を握る。
これまでも、何度だってあったはずなのに、なぜだか今日はそれがひどく気恥ずかしい。
おれもだと伝えるには過ぎた時間が長すぎた。
だって、いまさらだろう。
だからおれは少しだけ悩み、「お待たせ」と一言だけ告げた。
(2011/01/06〜2011/09/04)