拍手26


 笑顔と活気に包まれた会場の隅の窓をあけ、バルコニーへと一歩踏み出し、空気の冷たさに身体を震わせた。
 吐く息が白い。
 雪でも降るのかと見上げた空には、冬の澄んだ空気の中で星が綺麗に輝いていた。
 まるで彼の瞳のようだと、自然と口許が和らぐ。


「風邪をひきますよ」
「ひく前に、あんたが来てくれると思ったんだ」
 自分がいなくなればすぐ探しに来てくれると思っていた。
 彼は期待を裏切ったりしない。
 ゆっくりと振り向いた先で、予想通りの姿を見つけて手を伸ばした。
 すぐに手をとられて、まるでダンスでもするようにどちらともなく引き寄せあう。
「あけましておめでとう、コンラッド」
「あけましておめでとうございます」
 さっき広場で皆で交し合った挨拶だというのに、二度目も律儀に返事を返してくれるのは、きっと同じ気持ちだったからなのだろう。
 気恥ずかしさではにかんだら、優しい眼差しが降って来た。
 続いて、少しずつ近づいてくる銀の星を見つめていられなくて目を伏せる。
 大きな手のひらが頬を包み込み、そっと唇に温かな感触が触れた。


 一年の最初の特別な日だから、ほんの少しだけでも二人になりたかった。
 ちゃんと彼に伝えたかった。
「今年もよろしく」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
 もう一度唇を触れ合わせてから、笑いあった。
 今年もきっといい年になりそうだ。


(2013/01/01〜2013/05/18)