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1.
コンラートの傍らで、先ほどまで楽しそうに次から次へと様々な話題を出していた少年が、ふいに黙った。
続いて肩へと僅かな重みを感じて、コンラートの心臓が僅かに跳ねた。
「……ユーリ?」
呼びかけに返事はなく、代わりに聞こえてきたのは小さな寝息だ。
体を揺らさぬように気をつけながら隣を見やれば、無防備な寝顔がそこにあった。
きっと疲れていたのだろう。
ベッドに運んであげることも考えたのだが、起こしてしまうのは可哀想だ……というのは言い訳かもしれない。
コンラートは、近くの椅子にかけておいた上着を引き寄せ、傍らの少年の体へとそっとかけた。
肩にかかる温かくて心地良い重みをもう少しだけ感じていたい。
目を覚ました彼が慌てて飛び起きるまでと、手近な本を手に取り、文字を追いはじめた。
2.
「笑うことないだろ!」
はじめての恋人なのだと打ち明けてくれた彼は、次の瞬間に顔を赤くして怒り出した。
意識するより先に浮かんでいた表情は、決して彼が思ったような理由からではないのだ。
彼のはじめて。彼の唯一の特別になれたことが、言葉にできないぐらいうれしい。
両手で触れた細い肩がびくりと震えた。
不安と羞恥と期待を混在させた真っ黒な瞳が上目遣いに俺を見上げたあと、ゆっくりと瞼に隠された。
強く閉じた目許も、引き結ばれた唇も、握り締められた拳も、はじめてのことに緊張しているのに、腕の中から逃げようとする意思だけは感じられないから。
「好きです、ユーリ」
あなたが。
あなただけが。
そっとささやいて、僅かに震える唇へと自分のそれを押し当てた。
3.
「たまには、ユーリからしてください」
「へ?」
「キスですよ、キス」
大切な少年との関係が変わった。それだけで幸せだったはずなのに、ひとつ幸福を手に入れたら、もっと欲が出た。
だが、欲張ってもいいのだと幸福を享受することを教えてくれたのも彼だ。
「キスって……」
「いつも俺からでしょう? たまには、ユーリからもしてもらえたら嬉しいなと」
彼になにかをねだる時、控えめに言うのがコツだ。優しい彼は、自分にできることならばむげに断ったりしないから。
そうやって甘えることも、受け入れてもらえる喜びを教えてくれたのも彼。
「うーん……」
僅かに眉根を寄せた彼の視線が、俺の唇に向けられていることに気づいて僅かに口端を引き上げた。
別に唇にと指定したわけではないのだと、助け舟を出すか出すまいか。
結論を出す前に唇へと与えられた感触は羽のように軽く柔らかで、とても幸福で。
胸を満たす喜びを伝えるべく、今度はこちらから唇を触れあわせた。
(2013/05/19〜2013/08/03)