拍手28
「……リ」
額に乗せていたタオルを持ち上げると、閉じられていた目がうっすらと開いた。同時に、布団におさまった胸もとが大きく上下する。
「くるしい?」
いつもより乱れた呼吸も、赤く色付いた顔も、少し潤んだ目許も、すべてが彼の苦痛をあらわしていて、尋ねながらつい顔をしかめてしまった。
心なしか、今日は丸い耳を覆う毛に艶がないようにも見える。
「って、くるしいに決まってるよな」
見ていることしかできないことが、こんなにもくるしい。
でも、もっと苦しいのは彼の方だ。
「……ど、して」
「うん? コンラッド、食欲は? 水飲む?」
「……さい」
額に張り付いた前髪を掻き分けてから、新たに水をしぼったタオルを乗せてやる。
「なに? 聞こえないよ」
コンラッドが何を言いたいのかは分かったけれど、声が小さく掠れたのをいいことに、聞こえなかったふりをした。
体温が高い分だけ冷やしたタオルが気持ち良いのだろう。目を伏せる姿を見たら、心配と同時に少しだけ腹が立つ。
「あんた、いつもおれの心配してくれるじゃん。おれも、あんたの心配がしたいんだよ」
苦しいなら、強がるな。
そんな無理しなくたって、獅子が強いことなんてちゃんと知ってるんだから。
だから、こんな時ぐらいおれの心配なんかしないで甘えてくれればいいのに。
「早く良くなってくれよな」
布団の上に手を置いた。彼の胸が大きく上下するのを手のひらに感じながら、とんとんと小さく叩く。
苦しいときに傍にいてくれる存在のありがたさを、おれは良く知っている。それを教えてくれたのは、コンラッドだ。
同じになれたらいいなと願いながら、苦しそうな呼吸が穏やかな寝息にかわるまで、おれはゆっくりとリズムを刻んだ。
(2013/08/04〜2013/09/23)