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《獅子と子猫》
「ガオー!」
おれだって猫科、つまり肉食獣の一員なんだぞという意味を込めて、軽く丸めた両手の爪をアピールしてみた。 空けた口からは牙だって覗いているはずだ。
それなのに。
目の前の獅子は、にこにこと笑って尻尾を揺らすだけだった。
「……」
「ユーリ、どうしました?」
ゆらりゆらりとゆれる尻尾は、おれのとは形が違っていた。尻尾の先についたふさふさは、百獣の王である獅子の証。
「ちょっとぐらい、怯えてくれたっていいじゃないか」
同じ猫科のはずなのに、どうしてこんなに違うのか。
不満を口にすると、彼は大きな身体をおれの方に寄せてきた。
「襲ってくださらないんですか?」
見下ろす瞳がとても楽しそうな輝きを見せることに腹が立つ。
おれをただの猫だと思うなよ。
「後悔するなよ!」
「はい」
おれは、いつまでもにこにことした表情を崩さない獅子の手の甲に尖った爪をたて、急所である首筋に噛み付いた。
「おれが本気出したら、あんたにだって負けないんだからな」
牙を立てないように、ガジガジと食みながら訴える。
おれは平和を愛する肉食獣だから、手を抜いてやっているだけだ。痛いのは好きじゃない。
おれの訴えを理解しているのかいないのか、彼は相変わらず笑ったまま獅子の尾を揺らしていた。
(2013/09/24〜2013/10/28)