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《新婚さんパロ》


 念願叶ってプロポーズにOKをもらえてからは、めまぐるしい日々だった。
 すぐにご両親に挨拶に伺い両手をついて頭を下げた時の緊張は、きっと一生忘れないだろう。隣に座っていた彼が握ってくれた手の温もりも。
 これから一生を共にするという約束をもらったにもかかわらず、少しも離れていたくなくてすぐに新居を決めてしまった。彼の意見を聞くべきだったと気づいたのは契約を済ませた後のことだ。それぐらい浮かれていた俺を、彼はいつも通りの大らかさで「あんたでも慌てることってあるんだな」と笑って許してくれた。



 雲ひとつない空は、新たな生活を祝ってくれているかのようだ。
 真新しい家電や家具、それからそれぞれの私物が詰められたダンボールが散乱する部屋の中。
 先ほどまで元気にあちこち動き回って片づけをしていたはずの彼の声が聞こえないことに気づいて、顔を上げた。
 どこに行ってしまったのか。出かけた様子はなかったのだが。
「ユーリ?」
 積みあがった箱を避けて辿り着いたリビングに、彼はいた。
 日当たりの良い窓辺でクッションを枕に身体を丸めた彼が、寝息を立てていた。今日は早朝からずっと動きまわっていたから、きっと疲れが出たのだろう。
 傍らにしゃがみこみ、健やかに眠る彼を見下ろしてみるが、まったく起きる様子がない。
 何度となく見てきた寝顔だけれど、何度見ても同じように胸の奥から温かな気持ちが湧き上がる。きっとこれからもずっと変わらないのだろう。それほどまでに、彼がいとおしい。そして、こうやって幸福を感じることができる幸せを与えられたことが、何よりもうれしい。
 起こさぬよう慎重に、そっと隣に寝転んだ。背後から一回り小さな身体を抱きこんで、彼の腹の前で手を重ねると左手につけられた揃いのリングも触れ合った。
 引越し作業はまだまだ途中なのだが、それはまた後でいいだろう。
「愛してるよ」
 起こさぬよう小さな声で囁いて、夢の中でも一緒にいられるように願いながら目を閉じた。


(2013/11/10〜2013/12/30)