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宿に戻るなり、コンラッドの襟元を掴んだ。
突然の乱暴に驚いた表情の彼だったけれど、すぐにおれの意図に気付いて目元を和らげた。
怒っていたはずなのに、そんな表情にさえかっこいいなって思ってしまうんだから、本当におれはコンラッドに弱いと思う。
「どうしたんですか?」
キスをしながら、彼が離れてしまわないようにすぐに首に腕を絡めた。
当たり前のように腰を抱いてくれる腕がうれしい。
「あんたはやっぱりモテるなと思ったら、腹が立った」
悔しいけれど、正直に告げたのは、彼がくれる言葉を知っていたからかもしれない。
「そんなことないですよ」
「綺麗なお姉さんに引っ張りだこだったじゃん」
「それでも、全部断ったでしょう? ちゃんと『裏切れない人がいるんで』って」
以前訪れた時より治安の良くなった温泉街には、もう中学生みたいな女の子の客引きはなくなっていた。
それでも年上の美人なお姉さんはちらほらといらっしゃって、そういった人たちが声をかける相手は当然おれではなくコンラッドだ。
コンラッドがついていったりしないのは分かっていても、恋人としてカレシが一緒にいるときにナンパされたら面白くないのは当然で。
「ん、んっ」
誰にもやらないと、意地になってキスを繰り返した。
いつもは彼のペースに翻弄されるばかりだけれど、今日は自分から舌を差し出して、彼の唇の中に差し入れる。
自分とは違う体温を感じながら、舌先を擦り合わせると背筋が震えた。
「今日のユーリは大胆ですね」
「ん、っ……は、ぁ……」
すっかり息があがる頃に唇を離した。端から伝い落ちた雫のあとをコンラッドの指先が撫でながら笑う。
余裕綽々なのが悔しくて、彼の顔から視線を落として襟のボタンに手をかける。
彼の服を乱しながら、考えるのは彼のことばかりだ。
上着を床に落として、中に着ていたシャツのボタンを全て外した後で、手を引いてベッドへと移動した。
「あんたは、おれのだから」
彼はものじゃないと頭では分かっているのに、おれの中の感情が彼が全部自分のものだったらいいのにと叫んでいた。
(2014/04/26〜2014/08/20)