拍手36
恋人を部屋に誘うからには、それなりに下心というものがある。
ましてや、泊まりなら尚更だ。
けれど、年若い恋人ときたら人の気持ちになどまったく気づきもしないで、先ほどから楽しそうに昨日の試合の結果を夢中で語るばかりだ。
「それでさ、コンラッド」
楽しそうな笑顔も、色事に疎いところもかわいくて、そういう部分も含めて好きになったとはいえ、コンラッドが内心で考えるのは「どうしてくれよう」ということばかりだ。
すぐ目の前には、かわいらしい笑顔。
風呂上りの温まった身体から香る石鹸は同じにおいなのに、彼からするというだけで特別に感じる。
パジャマ代わりに羽織った一回り大きなシャツだとか、そこから惜しげもなく伸びるすらりとした脚だとか、彼は自分のおかれた状況をまったく理解していない。
「コンラッド、聞いてる?」
どうしてくれよう、と何度目か分からない思考にとらわれている間に、さすがに話をあまり聞いていないことに気づいたのだろう。
怒るというよりは不思議そうに覗き込んでくる瞳を前にして、コンラッドは観念することにした。
「ユーリ」
「なに?」
ベッドから落とさぬように気をつけて、真上の重みをひっくり返した。
「うわっ? え、なに?」
きょとん、と瞬く彼は、この期に及んで気づかない。
無自覚すぎるあなたが悪いとも思わなくもないけれど、そういう部分も含めて好きになったのだと自覚しているからこそ、もう少し自分が我慢すべきだろうとも思う。
どうやったって、彼を前にして最後まで我慢することなんてできないのだけれど。
「ごめんね」
苦笑まじりに呟いて、ゆっくりと距離を詰めた。
近づくにつれて影に覆われていく恋人の顔が、少しずつ朱に染まるのを確かめてコンラッドは目を閉じた。
(2014/08/21〜2014/12/29)