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「何を読んでるんです?」
「毒女アニシナの最新刊」
いま、巷をにぎわしている話題のベストセラーを手に入れてから、眠る前の日課となった読書タイムは部屋が変わっても変わらない。
コンラッドのベッドを占拠していたユーリは、浴室から出てきたコンラッドに尋ねられて、ページから視線を上げた。
「墓場のシーンとか、ちょーすげえの」
「へえ」
コッチーたちが土の中から続々と登場するシーンは、夢に出てきそうなほどの派手な描写だ。ユーリがグレタぐらいの年齢だったら、トイレに行けなかったかもしれない。
ベッドへ乗り上げたコンラッドが、ユーリの横へと手を突いた。身体を倒して覗き込んでくる彼に見やすいように、一番すごかったページへと何枚か捲って戻してやる。
「ここ、ここ」
ユーリの指の先を見ようと、尚も身を乗り出したコンラッドが、文字を追ってふわりと笑った。
くすぐったい息が耳にかかって、反射的に首を竦めたユーリは、ようやく近い位置にある顔に気づいて固まった。
「……あ」
間近の距離で視線が絡む。
銀色の虹彩が灯りに反射してきらりと光る。不思議な輝きに目を奪われた隙に、唇に柔らかな感触を感じてユーリは目を瞠った。
「ごちそうさま」
身を起こしながら微笑むコンラッドをぽかんと見つめる。
ユーリの頭の中からは、先ほどまで夢中になっていた本の内容がさっぱり消し飛んでいた。
(2014/12/30〜2015/02/11)