未来


「誕生日おめでとう、ユーリ」
「ありがとう」
 日付が変わった直後に、既に一度聞いている言葉であっても、改めて祝われればうれしいものだ。
 降誕祭のパーティーを終えて自室に戻ったユーリは、アルコールで火照った頬を緩めた。
「ずいぶんご機嫌ですね」
 足元が少しおぼつかないユーリのかわりに、重たい王冠を外し、マントを外し、甲斐甲斐しく世話をするコンラートがつられたように笑う。
 傍にいてくれないと嫌だと訴えたのは、もうずいぶんと前のことだ。子供じみたわがままだと切り捨てられてもおかしくないようなユーリの願いを、コンラートはできる限りではあるけれど叶えようとし続けてくれていた。
「毎年こんなに盛大に祝ってもらってるんだから、喜ばないとバチが当たるよ」
 祝われてうれしいのはもちろんのこと、遠方の友人との久方ぶりの再会や、みんなが楽しそうにしている姿に心が弾んだ。
 でも、何より一番うれしかったのは 。
「へへっ」
 立っていられないほど酔っぱらったわけではなかったが、力を抜いて後ろに倒れた。予想通り受け止めてくれる人へと、遠慮なくもたれかかる。
「今年は特別だからな」
 去年まで魔王陛下の護衛としてすぐ後ろに控えていたコンラートだが、今年は違った。
「王配殿下ってみんなに呼ばれてたけど、そろそろ慣れた?」
 ひやかすような呼びかけは、隣に立つユーリにもよく聞こえてきた。
「慣れませんね。あなたの伴侶だと呼ばれるんですよ。幸せすぎて、どうにかなりそうだ」
 からかうつもりだったのに。聞いているこちらが恥ずかしくてどうにかなりそうだ。
 甘さを含んだ笑顔で言うものだから、余計にたちが悪い。
 ユーリの方が耐え切れず、もたれていた背を浮かせようとしたのだが、すかさず伸びてきた両腕の中に捕まった。
 恥ずかしいけれど、嫌じゃない。酒と雰囲気に心まで酔ったようだ。ふわふわした気持ちの中で、身じろぐようにして向かい合う。
「大事なことを忘れるとこだった」
 昔のユーリが願っていたほどに縮んでくれなかった身長差を、コンラートの頭を引き寄せることで強引に埋めた。
「あんたも、誕生日おめでとう」
 ゴッドファーザーズバースデーには、ユーリからのキスを。
 さすがにもう子供じゃない。触れるだけのキスなんてかわいいもので、もっとすごいことだっていつもしている。
「ありがとうございます。何よりの贈り物だ」
 それでも、毎年かわらずに嬉しげなコンラートの笑顔に、ユーリは初めてねだられてキスをした日に戻ったような気持になるのだった。


(write:2019.07.22/up:2019.09.01)