大人になってしまった話。


「大人になったなー」
 毎日、執務だったり謁見だったりと魔王サマのお仕事をこなして、その合間にコンラッドとキャッチボール。たまにモデルになれって迫ってくるヴォルフと追いかけっこをしたり、なにがきっかけになるか分からないギュンターの鼻血攻撃から逃げたり、城下におしのびで出かけたりと、時々イレギュラーもまざるけれど概ね変化のない平穏な日々。
 何か特別なことがあるわけでもなく流れる毎日だからなかなか気づけないけれど、ちょっとしたきっかけで気づくことがある。
「朝、自分で起きられるようになったり?」
 ベッドにうつぶせながらのおれの呟きを拾ったコンラッドが、茶化すように反応した。
「そうそう」
 地球とは違って目覚ましがなくたって、最近ではコンラッドが起こしに来る時間に目覚めていたりする。一番鳥が鳴くのと同時に、気持ちよいお目覚め。ただし、鳴き声の演技は悪いけれど。
 ちなみにこれは前日に、夜更かしをしなければ、という条件がつく。まあ、夜更かしをするのはだいたいコンラッドの部屋でだからこれは問題なし。
「執務室から脱走しなくなったり?」
「素振りだこしかなかったおれの手に、新たにペンだこが仲間入りってね」
 難しい文字はまだ聞かなければならないけれど、基本的なものは覚えたせいか、仕事がちょっと楽しくなってきた。意味が理解できるって大事だよな。今までは、ただの模様にしか見えなかったし。
 相変わらず、グウェンやギュンターが選別してくれた仕事をするしかできないけど、少しは魔王サマらしくなってきたなーとはちょっと自分でも思う。
 たぶん、みんなもちょっとは認めてくれてきていると、思いたい。
 あとは……。
「あの紐パンも、恥ずかしげもなく結べるようになったし」
 これは喜ばしいことなのか、悩むところだけれど、今ではすっかり慣れ親しんでしまった。
 結び方が甘くて、うっかり解けてしまうなんてことが無くなったのは良かった。
「それについては、結んで差し上げられなくてとても残念です」
 この年でパンツはかせてもらうってどーよ、それ。
 でも、コンラッドは本気で思っているらしく、大きなため息までついてみせた。
「ちょっと、コンラッドさん?」
 不埒な手が、さりげなく毛布の中へと伸ばされる。
 話題にあがったばかりの紐パンはそこにはなくて、むき出しのお尻の丸みをなでられて、身体が竦んだ。
「……っ、こら」
「名付け親としては、かわいい名付け子の成長具合を、確かめようと思いまして」
 言いながらも、表面を撫でていただけだったはずの手が、揉み込むように動き出す。
 ああ、もう。
 一度引いたはずの熱が少しずつ戻ってくる自分の身体を自覚して、本当に、大人になってしまったと思う。
 それとも、それは気のせいで、まだ若いからその気になってしまうのか。
「名付け親が、子供にこんなことすんのかよ」
「失礼しました、ユーリ。恋人としてなら、触れてもいい?」
 仮にも親子と名前が付く関係ではまずいけれど、恋人としてならば、やぶさかではないといいますか。
「仕方ないな」
 素直に受け入れて「したい」なんて言えるほどに大人じゃないけれど、真っ赤になって返事ができないような子供でもない。
「ありがとうございます」
「どういたしまして?」
 体を向き合わせながら首へと腕を絡めれば、嬉しそうな笑顔が返されるから、大人だとか子供だとか、そんなことはすぐにどうでもよくなった。


(write:2011.07.22/up:2012.07.22)