意地をはるより


 二人掛けのカウチに二人で座る。
 コンラッドは普通に背もたれにもたれるようにして。
 俺は行儀悪く、肘掛に脚を乗せて横向きに。
 必然的に背中がコンラッドへともたれかかる。
 会話はない。視線も合わない。
 各自がそれぞれの手の中の本を読んでいる。
 静かな部屋には、時折ページを捲る音がするだけの静かな時間。
 溜まっていた執務が片付いた。
 たぶん、地球に還される日は近いと思う。
 コンラッドもそれに気づいているはずで、だからなるべく一緒にいようとこうやってくっついた。
 自由に行き来できたらいいのにな。
 ページを捲りながら考える。
 本当は先ほどから内容なんて頭に入っていない。
 背中に感じる温もりばかりが気になるのだ。
 もう一枚ページを捲る。
 自由に行き来できたら、もっとずっと一緒にいられるのに。

「あ…」
 目の前から本が消えた。
 持ち上がった本を追いかけると、その先に笑顔のコンラッドがいた。
 コンラッドは基本的にいつも笑顔だ。けれど、その笑顔にはたくさんの種類があることを知っている。今日のは、どちらかというと楽しいというよりも、困っている顔。
 コンラッドはさっきまで自分が読んでいた本と、俺から取り上げた本を重ねてテーブルへと置いた。
 どうせ内容は頭に入ってなかったから、構わないんだけど。
「ユーリ」
 テーブルに置かれた本の表紙を見ていたら、名前を呼ばれた。
 だから、コンラッドの顔がよく見えるように、俺は身体の向きを変えて彼の膝の上へと移動し、向き合った。同じ高さの視線で見つめると、コンラッドが笑いながらちょっとだけ眉根を寄せてみせた。
「読書もいいですが、俺の相手もしてください」
 あんまりにも素直な言葉に、虚を突かれた。
「あんたでも、子供みたいなこと言うんだな」
「いつ還ってしまうか分からないあなたを前にして、虚勢を張っても仕方ないでしょう」
 大人のくせにと思い、大人だからかとも思った。
 たぶん、コンラッドは知っている。
 俺が言い出せなかった寂しい気持ちとか、頭に内容が入らないのに本を読んでるフリしてたこととか。
「それもそうだな」
 なんとなく強がってしまっていた俺の代わりに折れてくれたのかなと思うと、恥ずかしい反面嬉しくなって、その気持ちに甘えることにした。
 そのまま首に腕を絡めて、自分からキスをすればコンラッドの種類が、嬉しい時のものに変わる。
「ありがとうございます」
「こちらこそ?」
 お礼を言うのもおかしいけれど。
 さりげない優しさに感謝して、俺たちは笑った。


4000HIT:仁尾さまより「原作ベースで、ユーリを愛しまくってるコンラート」
(2009.08.30)