intoxicate
煌びやかな夜会の席。
上王陛下主催ともなればお断りすることも難しく、ユーリは主賓の息子を伴ってやってきた。
ダンスも上流階級の会話も苦手だが、立場上全て断ることはできない。危険に対してのみではなく、そういったものからも護られながら、護衛と共に適当な挨拶をして歩く。
明るい照明、楽しげな雰囲気。
人ごみに酔ったのかもしれない。
眩しいな…と、そんなことを考えながら、ユーリは給仕に手渡された飲み物を受け取った。
「ユーリまって」
コンラッドが慌てるが、主催はツェリ様だ、自分を害するようなことなどないだろうと簡単に考える。
ブドウの香が強く口当たりが良いジュースを一気に喉に流し込む。
途端に、ふわりと身体が揺れた。
「まったく」
腕の中の健やかな寝顔を覗き込み、コンラッドは溜息を落とした。
禁酒禁煙を声高に叫ぶ主だから耐性がないのは予想できていたが、まさか一杯でダウンするとは思いもよらなかった。
自分も上流階級といった付き合いが出来る出来ないかは別として好きではないので、抜け出す口実が出来たのはありがたいが。
眠る主を連れて城まで戻るのは躊躇われたので、客室を借りた。
王の寝室ほどではないにしろそれなりの広さのあるベッドへと眠るユーリを横たえさせる。日帰りのつもりだったので着替えは用意しておらず、明日も着ることになるので皺になる前に脱がせるべきだろう。
「無防備すぎますよ」
真紅のマントを剥ぎ取り、椅子へとかけて。黒い学生服もどきに手をかける。
相変わらず眠る人は起きる気配がなく、自分の前で良かったと思う気持ち半分、ほんの一瞬でも目を離したことを後悔する気持ち半分で苦笑が漏れた。
慣れた手つきで上着を脱がせて、ベルトに手をかける。少し躊躇ってから、ズボンも脱がせて。寝苦しかろうとシャツのボタンを上から二つほど外して。
自分の堅苦しい白の軍服の上着も一緒に、備え付けのクローゼットに片付けて、ようやく一息くとベッドサイドに腰を下ろした。
指の背で頬を撫でると、薄く開いた唇から吐息が漏れた。
仄かな明かりに浮かび上がる顔は赤みを帯びていた。今は伏せられた目元だとか、シャツ一枚を羽織るのみの姿が共に過ごす夜を思い出させて、コンラッドは眉を顰めた。
「ん…」
眠る恋人に手を出すほど酷い男にはなりたくないのだが、触れる手を止められない。
時折、吐息を漏らす唇を親指で触れてみる。下唇を撫でて、誘うように薄く開かれた中へと入れると、いつもは己の舌先でそうするように歯列をなぞる。
「……ふ…」
無意識なのだろう、唇の隙間から舌が覗く。指の腹で撫でてやると、零れる吐息が熱かった。
「まいったな」
本当に無防備すぎる。
唇に触れていた手で形の良い顎のラインを撫で、首筋へ。
そろそろ止めないといけない。
けれど頭で浮かぶ考えに反して手は正直で。外したボタンの隙間から指先は鎖骨をなぞる。
いつもより高く感じる体温が、冷えた手に心地良い。
「……んっ」
市井で愛飲されるような酔う為の酒ではない、味を楽しむための上品な酒で自分が酔うとも思えなかったのだが。
「俺も酔ったか?」
ぽつりと呟きを漏らしながら触れ合わた唇から、どちらのものとも分からない酒の香りがした。
「コ…ン……」
「ユーリ?」
起こしてしまったのだろうか?
唇を触れ合わせたまま窺ったユーリの目は閉じられたまま。寝言だったらしい。
どんな夢を見ているのか、それとも無意識なのか、掠れた小さな声は確かに自分を呼んでいた。
「ユーリ…」
ごめんね、と小さく呟く。
眠る人には聞こえていないだろうけれど、我慢できそうになかった。
「…ん、…ぁ…」
きもちいい。
夢を見ていた。
コンラッドの冷たくて節くれだった手がシャツ越しに身体中を撫でる。弱い脇腹や、胸の突起を擽るように。
「コン…ラ…、ド…、ぁ…ん」
恥ずかしくはあるけれど、それ以上に嬉しくて、ユーリの唇から甘い声が漏れる。
じんわりと腰が熱くなる。もっと触れて欲しくて、腰が揺れた。
「……ん…、…は…ぁ…」
手とは反対にシャツ越しに熱い口腔で胸の突起を愛撫され、望むままに下着越しに下肢へと手が触れる。
唾液に濡れたシャツが透けて、蝋燭の明かりに照らされたそこがあやしく光った。
「…ぁ…、きもち…い…」
「ユーリ、起きた?」
なんのことだろう。
夢見心地のまま、ゆっくりと目を開いたユーリは、胸元へと顔を埋めたまま視線だけを向けてくるコンラッドをぼんやり見つめた。
「…っ、…ぁ…ん……」
「ごめんね」
なにを謝っているのだろう。
「コン…っ…、ぁ…もっと…、さわ…て…」
触れやすいように片膝を立てながら、シャツを捲り上げる。おねだりに、コンラッドが首を伸ばして強引に唇を合わせた。
「…ふ…ぁ、コンラ…っ…」
言葉を呑みこむような深い口付けに、ぼんやりとする。ユーリの耳に水音だけがリアルに響いた。
下着の紐は軽く引いただけで簡単に解ける。先走りで濡れて張り付いた小さな布をコンラッドは片手で剥ぎ取り、勃ち上がったユーリの熱を握りこんだ。
「ぁ…ん…」
性急な手の動きに反応して、先端からあふれ出す蜜が幹を濡らす。求めるままに腰が揺れた。
もっと気持ち良くなりたいと、素直に快楽だけを求める。火照った身体がユーリを苛んだ。
「…ぁ…うしろ、も……」
「もちろん」
コンラッドが笑う。口端を吊り上げた淫蕩なそれを視界に捕らえ、これから与えられるものを想像して身体がさらに熱を持つ。
「今日は香油がないので」
大腿の裏に両手がかけられた。熱を分け合ったコンラッドの手はもう冷たくなくて、ユーリと変わらぬ体温で欲情を伝えてくる。
「ん…、はや…く…」
「了解」
大きく割り開き露にした双丘の間へと、コンラッドは唇を寄せた。
「…ぁ…きもち…い、っ…は…ぁ…」
自ら上になり腰を振るユーリを、コンラッドは恍惚と眺めた。
酒で理性を薄れさせているのか、それともまだ半分夢の中にいるのか、今日のユーリはとても大胆だ。
上になって、と普段ならば羞恥が勝り拒絶するだろうコンラッドの希望を、あっさりと受け入れた。
「…っ…ん…、ぁ…」
唾液で濡らし散々慣らした場所はコンラッドを呑みこみ、ユーリの先走りと混ざり合って濡れた音を響かせる。
繋がった場所が熱い。
思うままに動くユーリを邪魔せぬように気遣いながら、コンラッドは顎先や首筋へと口付けを落とした。
「ぁ…も…、イッちゃ…ひゃ…」
自重によりいつもより深く繋がりが、腰を甘く痺れさせる。
「もう少し…、我慢して」
「っ…ぁ…、コンラ…っ、ぁ…あ…」
追い上げるように、コンラッドが添えるのみにしていた手でしっかりと腰を掴み、持ち上げ、落とす。
同時に下からも突き上げれば、ユーリの背が撓り、悲鳴ともつかない嬌声があがる。
「ユーリ…」
掠れた声で、低く甘く名前を呼ぶと、もはやされるがままに甘い声を零すのみとなったユーリの目がうっとりしたように細められた。
「一緒に…っ、イッて…」
「ぁ…や、っ…ぁあ…ん」
持ち上げた腰を落とす、タイミングを合わせて同時に突き上げると、大きく腰を振るわせたユーリが堪えていた白濁を吐き出した。
「…ひ…、ぁ……」
断続的に腰を震わせながら、ぎゅうっとコンラッド自身を締め付ける。熱くうねる内部へと欲望を吐き出しながら、コンラッドはユーリの身体を強く抱きしめた。
「…っ…、ユー…リ…」
「ん…、っ…は…ぁ…」
くったりとした身体は限界らしい。大好き、と告げた唇は返事を待たずに寝息を立て始めた。
「ごめんね」
汗で張り付いたユーリの前髪をかきあげながら、あらわれた額へと口付けを落とす。
自分のした無体を思い苦い笑みが零れたが、抱きしめた人の寝顔はとても穏やかで。
明日、彼はこのことを覚えているだろうか…などとコンラッドはちらりと考えて、その時はその時だと思い直してゆっくりとユーリの身体をベッドへと横たえた。
軽く身体の汚れをふき取ってやり、自分も隣へもぐりこむ。
「おやすみ」
最後に唇へとキスを落として、自らも目を閉じた。
8888HIT:アロマさまより「酔っ払いユーリに悪戯するコンラート」
(2009.09.24)