プレゼント


「ユーリのお誕生日、もうすぐなんだよね?」
 血盟城の一角。
 テラスでティータイムを楽しむ魔王陛下のご機嫌は、留学先から帰国している愛娘のおかげでいつもの5割増しだ。
「そうだな、29日だよ」
「何か欲しいものってない?」
 第二十七代目魔王陛下の生誕祭に向けて、現在の血盟城は大変慌しい。
 グレタもそのお祝いに参加する為に戻ってきており、本当は誕生日は本人に聞くまでもないのだけれど。
 そして留学先で学友のベアトリスと共に誕生日プレゼントは既に用意してある。
 けれど、グレタにはあえてユーリに訊ねなければならない理由があった。
 野球以外にはあまり興味のない王を持つ側近達は、敬愛する主への贈り物に頭を悩ませ、かといって自分達から訊ねることも出来ず、小さな姫に助けを求めたからだ。
「欲しいもの、ねぇ…」
「大好きなユーリの誕生日だもん、グレタに出来ることならなんでも頑張るよ!」
 握った拳を天に突き上げて力説する娘を、感激のあまりユーリは強く抱きしめた。
「あぁ、グレタはやっぱり可愛いな!」
「きゃあ、ユーリくるしいよ」
「そうやって慕ってくれるだけで、お父さんには何よりの誕生日プレゼントだよ」
 グレタ、任務失敗。
「えーっ?ユーリの好きな『やきゅー』とか、欲しくないの?」
「野球はもう、出来てるしなぁ。そりゃもう少しキャッチボールする時間は欲しいけど…」
 娘の期待を込めた眼差しに、いざ考えてみるがこれといって思い浮かばない。
「そうだなぁ、当日にグレタが『おめでとう』って言ってくれるのが何よりだよ」
「つまんなーい」
 少し唇を尖らせる腕の中の少女に、ユーリの顔が綻ぶ。
「本当はもう、貰ってるんだよ。これ以上のプレゼントはない」
「なに貰ったの?」
「グレタだよ」
 意味がわからずに、きょとんとするグレタを見て、ユーリは笑みを深めた。
「今年はグレタがいる。他のみんなも。神様なんているのか分かんないけどさ、こうしてここにいられることが何よりも幸せで、嬉しいからそれ以上の贈り物なんてないよ」
「グレタも!ユーリと一緒で幸せ!!」
 幸せだと笑いあえる。
 これ以上にない幸せだ。
 ユーリの言葉をみんなに教えてあげよう。
 きっとみんな喜ぶ。
 みんなの喜ぶ顔を思い浮かべ、グレタはますます幸せな気持ちになった。


(2009.07.29)