Happy Halloween


※合同誌のネタバレを含みます


 地球のハロウィンは「お菓子をあげなきゃイタズラするぞ」だが、眞魔国の葉露飲は地球のそれとは少し違う。眞魔国では、「トリック・オー・トリート」と言った方がお菓子を差し出し、受け取った側がイタズラをすることになっている。つまり「お菓子をあげるので、イタズラしてください」というわけだ。
「ユーリ、口を開けて」
「ん?」
 一緒にいると安心するという、護衛としても恋人としてもうれしい評価してくれる恋人は、コンラッドの呼びかけに応えて口を開けた。まったく無防備なことこの上ない。
「はい、トリック・オー・トリート」
 ほとんど条件反射だったのだろう。白い歯が覗く口の中にチョコレートを一粒放り込まれたユーリが、驚きを隠さずに瞬いた。
「びっくりした。あ、これうまいな」
 けれど、そんな表情も長くは続かず、舌の上で溶け始めたチョコレートの味に気付いた彼は、すぐに破顔して次をねだって口を開ける。
「ユーリ、聞いてましたか? トリック・オー・トリートって言ったんですが」
 お菓子をあげたので、イタズラしてください。
 つい、ねだられるまま二つ目のチョコを口に入れてやりながら、コンラッドはもう一度繰り返した。
「あ、そうだった」
 眞魔国式ハロウィンを思い出してくれたらしいユーリが、うーん、と首を捻った。
 果たして、どんなイタズラが返ってくるのだろうか。『正義』の二文字をポリシーに掲げる彼だから、コンラッドにも予想がつかない。
 どんなイタズラであろうと、彼がくれるものならばきっと楽しいのだろうけれど。
「あんた、おもしろがってるな?」
「そんなつもりはないけれど、期待はしているかな」
 ユーリの指摘にコンラッドは自分の頬に触れてみた。自分では分からないが、にやけていたのかもしれない。
「で、イタズラは決まりましたか?」
「おれにあんたを驚かせるようなイタズラ、できないと思ってるだろ?」
「そんなことは」
 ないよ、と続けるはずだった。
 ハロウィン衣装の首元が引っ張られた。
 驚いて開いたままになった口の中に感じたのは、自分のものではないやわらかな舌の感触と、チョコレートの甘さ。
「……ッ」
 目を瞠ると、すぐ目の前に得意げな恋人の顔があった。
「驚いた?」
 してやったり、と言いたげに彼が笑う。とても、かわいらしくて、魅力的な笑顔だ。
「……かなり」
 口の中がひどく甘い。そして、喉の渇きを感じながら、コンラッドはもう一度自分の頬を撫でた。
 これは予想外だ。けれど、思っていた予想通りでもある。どんなイタズラであろうと、彼がくれるものならば楽しくて、うれしいものでしかない。
「もう一度、ねだってもいいですか?」
 コンラッドが尋ねると、ユーリは仕方ないなと笑い、チョコをくれたら、と口を開けた。






Illustration:冬青様


(2016.10.16)