requited love 〜Side.Y〜
いつからだろう、この気持ちを自覚したのは。
いつも向けられる優しい笑顔に、助けられてきた。
彼は護衛だから一緒にいてくれると頭では理解していたけれど、納得しきれない心がそれ以上を求めて。
でも、言えないから、せめてと思い名付け子の特権を使った。
言わないと呼んでもらえない名前に寂しいと思っているなんて。
それでも、言えば呼んでもらえる名前に嬉しいと思っているなんて。
彼は全く気づいていないのだろうけれど。
「陛下、どうしたんですか」
「陛下って言うな、名付け親」
「すみません、ユーリ」
時折、夜に部屋を訪ねる。
「ヴォルフにベッドから蹴落とされた」
弟の寝相のせいにすれば、優しい兄であり護衛であるコンラッドは俺を追い返したりなんてしない。
温かい飲み物を用意して、他愛のない話をして、ベッドを譲ってくれようとするコンラッドに無邪気な振りで一緒に寝ようと誘う。
「寒くないですか?」
「大丈夫」
狭いベッドで身を寄せ合う。寒くないように、落ちないようにと気を遣ってくれる腕が優しくて、切ない。
あんまりくっつくと心音が聞こえそうで、胸の前に置いた腕で距離をとった。
いつだったか…一度、「好きだ」と告げたら、優しい笑顔で「俺もです」なんて返された。
知っているよ、コンラッド。
あんたの故郷の王様で、自分が運んだ魂で、弟の婚約者な俺のことが好きだろう?
でも、俺はあんたが名付け親で護衛だから好きなんじゃないんだ。
訂正したいけれどできないのは、俺のズルさ。困らせたくないからだけじゃない。この関係が壊れるのが怖いんだ。
「やっぱり寒い」
考えれば考えるほどに胸が苦しい。
互いの身体を離すために置いていた腕を、広い背中に回して、ぴったりと抱き合った。
聞こえる?
俺の心臓の音。
こんなにもあんたを好きだって言ってる。
灯りが消えて、闇がおとずれた室内で。
寝息は聞こえてこないから、たぶんコンラッドは起きているんだろう。
締め切ったカーテンの隙間から零れる月明かりは僅かで、ほとんど何も見えない。それでも、胸に埋めていた顔を上げればコンラッドと目が合うのが分かった。
「見る…な…」
「どうして?」
搾り出した声が、掠れる。
見ないで。
こんなにも好きなのに、伝わらない想いに息が詰まる。
「コンラッドは…、俺のこと、好き?」
「好きですよ」
欲しくて、けれど欲しくない答えに、胸が痛んだ。
同じ気持ちならばいいのに。
気づいて欲しい。
けれど、気づかないで欲しい。
相反する気持ちに、心が軋む。
泣きそうな顔を見られないようにと、伸ばした出てコンラッドの視界を塞いだ。
「ユーリ?」
いつもは陛下って呼ぶくせに。
大好きな声が、俺を追い詰める。
衝動的に、形の良い唇へと自分のそれを押し付けた。
もう隠しておけない。
初めての口付けは、涙の味がした。
(2009.08.26)