gaze
カーテンの隙間から漏れる朝陽が眩しい。
「……ん」
「おはようございます」
視界を遮るように手を翳すと、隣から耳に心地良い低音が聞こえてきた。
隣で眠っていたはずの男は気配に敏い。起こしてしまったのかとも思ったが、この部屋の主でもある男の爽やかな笑顔からは真実は窺い取れなかった。
どうせそろそろ一番鳥が鳴く時間、気にすることもないだろうと思い直してユーリは身を起こした。
「どちらへ?」
「風呂」
同じように上体を起こした男が片腕で引き止めるようにして腰を抱く。
「邪魔すんな」
「もう少しだけ」
昨夜そのまま眠ってしまった身体は衣服を身につけていない。剥き出しの肩に口付けを落とす男を振り返らぬまま、軽くその額を叩いて諌めた。好きにさせてしまえば、昨夜の続きが始まってしまう。
少しだけと甘い顔をして、言葉通りになった試しなどないのだ。
「ひどいな」
残念そうに、けれど楽しそうに笑う声が耳を擽る。
引き際を心得た男はユーリの漆黒の髪をかき上げ、顕になった項へと口付けを落として身を離す。
消えた温もりを名残惜しく感じながら、ユーリは今度こそベッドから離れた。
どちらのものかも判らない脱ぎ散らかされた服は足許に。けれど、備え付けの浴室へ行くだけなのだから、敢えて纏う必要もないだろう。
数歩進んで視線を感じ、振り返る。
「なに?」
「いえ、綺麗だなと思って」
立てた膝に肘をついて、綺麗な顔で笑う男と目が合った。
「あんたのほうが、よっぽど」
「まさか」
肩を竦める仕草さえ絵になるというのに。
「なんだよ」
いつまでも逸らされぬ視線に何か用かと首を傾げると、男は口端を更に引き上げて笑みを深めた。
「新鮮ですね」
「は?」
裸など見慣れているだろうに。
「ほら。いつもは恥ずかしがるじゃないですか」
途端に男の笑みが夜を思い出させるタチの悪いものへと変化した。
この男は、この笑みを浮かべながら拒絶を許さずに、それこそユーリ自身が見たことのない場所まで暴き立てるのだ。
急に忘れていた羞恥がこみ上げる。
「ばーか」
今度こそ振り返らずにユーリは浴室へと向かった。
いつもより歩幅が大きいことに男は気づいているのだろう。
後ろから聞こえてくる笑い声を黙殺し、浴室へと飛び込んだユーリは乱暴に扉を閉めた。
(2009.09.25)