rain sound


 雨が降っていた。
 しとしとと、静かに、細く、長く。けれど、途切れることなく。
 耳を澄まさなければ聞こえない程度の雨音に静かに耳を傾けながら、ユーリはソファの上に横たえていた身体を僅かに身じろがせた。
「どうしました?」
「なんか、居心地が悪い」
「柔らかくないですからね」
 すぐ上から降ってくる声につられて、もう一度身じろぐ。横に向けていた身体を仰向けへと変えれば、少し屈むようにした男の顔が予想外に近くて驚いた。
「いや、それより」
「それより?」
 季節柄、雨ばかり。外に出られなければ、これといって他にすることもなく、幸か不幸か執務も捗る。そうして出来てしまった時間を持て余していたら、少し休んではどうかと寝かしつけられた。
 寝台ではなく、ソファの上に。
 頭の下にあるのは頭が埋もれてしまうほど柔らかな枕ではなく、少し硬い腿。
 一定のリズムで髪を梳く右手も、腹の上に添えられた左手も心地よいけれど、この気恥ずかしい状況で休むことなどできるはずもなく。
 夕食の時間には起こすと言われたところで、眠気など一向に訪れない。
 見下ろしてくる目が柔らかく細められている様も、気恥ずかしさに拍車をかける。
「恥ずかしくないか?」
「そうですか? 俺は楽しいですよ」
「おれは恥ずかしいの!」
 頬が熱い。頬だけじゃなく、もはや顔全体が熱を持つ。そのすべてを映しているだろう瞳から逃げるように、持ち上げた腕で、ユーリは顔を覆った。
「寝る」
「はい」
 眠れるわけはないけれど、会話を打ち切るためにそう告げた。
 互いに口を閉ざせば、静寂が訪れる。
 騒ぐ心臓から気を逸らすように、小さな小さな雨音へと耳を澄ませた。


(2010.07.19)