ユーリ陛下はぴば2012
完全に出遅れてしまった。
既に出来上がっている輪は、そこへと加わろうとする人々によってさらに膨れ上がろうとしている。
コンラートは一番近い柱にもたれ掛かると、すっかり埋もれて見えなくなってしまった輪の中心にいる人物を思い浮かべて口元を和らげた。
「置いてきてもよかったんですよ」
「ダーメ、せっかくみんながくれたんだから、なるべくな。さすがに全部は無理だったけど」
両手にたくさんの箱を抱えたユーリは、隣からかかる声に唇を尖らせた。前がうまく見えないらしい。危なっかしい足取りは、右に左に定まらない。
隣を歩くコンラートも同じぐらいの量の箱を抱えてはいるが、こちらはまだ余裕がある。少し持ちましょうかと提案しかけて、この状況では受け渡しもままならないかと結局は足元への注意を促すに留めた。
「さすが、陛下。人気者ですね」
「ありがたいことにね。あーでも、これはお返しが大変だぞ。っていうか、陛下っていうなよ名付け親」
「そうでした」
通りかかった兵士を呼び止めて、扉を開けてもらった。なんとかたどり着いた部屋は、既にプレゼントの山で埋め尽くされていた。
「うわー、いつの間に」
「会場に来られなかった者たちからの贈り物でしょう。やっぱり、人気者ですね、陛下」
「だーかーらー、陛下っていうなって言ってるだろ、名付け親」
空いているスペースを探してプレゼントおいたユーリが、同じようにプレゼントをおいたコンラートへと向き直る。じーっと見つめてくる視線を受け止めて、どうしたのかとゆるく首をかしげるコンラートに向かって、ユーリは言いづらそうに口を開いた。
「あんたは? あんたはなんかくれないの?」
「ああ。もちろんありますよ。俺からは、これを」
そんなことかと、長方形の箱を形の良いコンラートの指先が示した。
「わ、これコンラッドからだったのか。いつの間に、ごめん気づかなくて」
たくさんの贈り物の中から、偶然にも本人の手によって運んでもらえる幸運に授かった箱の贈り主にユーリが気づかなかったのは無理はない。祝いの輪の中にはいりそびれたコンラートが、そっと他のプレゼントにまぎれさせたのだから。
「開けていい?」
「ええどうぞ」
「サンキュ!」
リボンを解いて箱をあけるユーリを見守る。プレゼントに夢中の彼は気づいていないが、見守るコンラートは珍しく緊張していた。
彼が喜ぶものをと考えて用意した品だが、実際に蓋をあけてみるまではそれが正解かどうかわからない。たくさんの贈り物たちの中で、一番に喜ばれる品であって欲しいというのはコンラートの我がままだ。
「おー! すごい。すごいよ、コンラッド!!」
両手に持って振り返ったユーリの表情を見て、ようやくコンラートから肩の力が抜けた。
「喜んでいただけましたか?」
「うん、すごいよ。おれ、欲しかったんだ」
素材探しからコンラートが行った。実際に作る作業は職人に任せたが、何度もコンラート自身が出来具合を確認し、微調整を繰り返した。
真新しいバットとミットを両手に抱えてユーリがはしゃぐ。あちらの世界ほどの品質ではないかもしれないが、すばらしい出来になったと思う。
「あんたには、おれが欲しいものがなんでもわかっちゃうんだな。こういうの期待するのもどうかと思うけど、あんたからのプレゼントが一番楽しみだったんだ」
屈託なく笑うユーリの言葉に、僅かにコンラートが目を見開いた。
この笑顔のために、悩んだのだ。苦労と感じたことはないが予想外の褒美に顔が綻ぶ。
「ありがとうございます」
「なんであんたがお礼を言うわけ? 変なの」
「いいえ、俺まで最高のプレゼントをもらいましたから。改めてお誕生日おめでとうございます、ユーリ」
やっぱり変なのとユーリが笑う。一緒になって笑いながら、コンラートは来年は何を贈ろうかと気の早いことを考えるのだ。
ユーリ陛下、はぴばー!
(2012.07.29)