2012年クリスマス


 いつもは黒に身を包んだ彼が、今日は朝から特別に用意した赤い衣装に身を包んで、城中を忙しく歩き回っていた。
 てっぺんを垂らした赤い帽子の先は、彼が動くたびに丸くて白い飾りがふわふわと揺れる。
 コンラートは今日一日、主のそんな後姿を、人々に振りまかれる笑顔を、そして城中の者たちの笑顔を眺めて過ごした。
《今日のおれはサンタになるから! みんなに、プレゼントを配る!!》
 一体、この城にどれだけの者たちが仕えていると思っているのか。
 無謀にも思える計画を朝から着実に遂行し続けた彼は、なんとか日付が変わる前に目的を終えた。そして、サンタ助手というコンラートの仕事も終えようとしていた。



「これで終わりですね」
 執務室から始まり、厨房にも兵舎にも行った。厩も、庭も、あちこちを見回っている兵士の元にまで。一人も余さぬようにと事前に用意されたリストは、これで最後だ。
「違うよ、まだ残っている」
 前を歩く彼は、目的地が決まっているようで、コンラートを従えたままどんどんと進む。
 そうして、たどり着いた部屋のドアを勝手に開けて、まるで自分の部屋のようにコンラートにも入るように促した。
「ユーリ?」
 つい、陛下と呼ぶのを忘れてしまった。なにせ、今日の彼は黒い服を身にまとっていない。
「違うよ、サンタだよ」
「そうでした」
 部屋のドアをコンラートが閉めるのを待って、コンラートへと向き直ったユーリが笑顔を見せた。
今日、城のあちこちで見せていた笑顔だ。たくさんの人たちに、プレゼントと一緒に幸せを分け与えていた。
 それをコンラートは一日中見ていた。とても、可愛らしい笑顔だった。誰もが、自然と笑顔を零すような。
「一番最後になってごめん、コンラッド」
「俺にもくださるんですか?」
 今日のコンラートは、サンタクロースのアシスタントだった。直接プレゼントを配るのはサンタである彼のみだったけれど、自分もそちら側にいるのだと思っていた。
 例えるならばトナカイだ。サンタはトナカイのプレゼントなど考えはしないだろう。トナカイもサンタにプレゼントをもらうことなど考えない。だが、彼らは不幸な関係ではないのだ。
 ただ、クリスマスというイベントを彼と周りの者たちが幸福に迎えられればいいと願っていて、現実となる過程は見ていてとても楽しかった。その輪の中にいられるという事実もまた、とても楽しいものだった。
「あんただけ、なにをあげたらいいのか分からなかったんだ。だから、なにも用意してなくてさ」
 曇る表情を見ていれば、彼がどれだけ悩んでくれたのか、よくわかる。
「別にいいんですよ。今日一日、あなたとプレゼントを配るのはとても楽しかった」
「それじゃダメだ。おれはサンタなんだから、あんたにもちゃんとプレゼントを渡したい。それで、提案なんだけど」
 もともと、貰えると考えてもいなかったし、そう思ってもらえただけで十分であると告げたいコンラートの心情を察しているからこそ、彼は納得せずに一つの提案を口にした。
「明日の二十五日に、一緒にプレゼントを探しに行かない?」
 サンタの彼は気づきもしない。
 その言葉だけでも既にどんなプレゼントよりもコンラートを喜ばせているということに。
 告げたところで、きっと理解してくれないのだろう。
 だから、コンラートは笑顔で頷いて、もう少しだけ欲張りになることにした。
「では、明日に備えて今日のところは休みましょうか。明日は街に降りましょう。きっと年末で、にぎわっていますよ」
「おう!」
 途端に、彼が笑う。
 その拍子に帽子が揺れる。ふわふわとしたそれは、とても幸福なリズムだった。


(2012.12.24)