続 2012年 クリスマス
誕生日を知らないので、名付け親記念日に何が欲しいのか聞いた時、「特にないですよ」と言われてしまった。
気持ちだけで十分だという。彼は本当に欲がない。
散々悩んで、結局実用的なありきたりなものになってしまったプレゼントを、彼はとても嬉しいと喜んでくれた。
でもユーリは知っていた。
たとえ、道端で拾った綺麗な小石をあげたって、彼は同じ顔をするのだと。
一日かけて城下をまわった。
年の瀬がせまった市場の活気は、肌で感じ取るだけで心が弾んだ。
あちこち彼を連れまわしたのは、自分の興味を満たすためだけではなく、少しでも彼が興味を引かれるものがあればいいと思ったからだ。
それなのに。
「そんなものでいいのかよ」
「ええ、十分すぎるぐらいにたくさん買って貰ってしまったから、ユーリのお小遣いが心配なぐらいだ」
休憩のためにおとずれた茶屋で、ユーリは眉根を寄せた。
あちこちの店で、彼はユーリに急かされるまま欲しいものを述べた。
茶葉が切れているだの、茶菓子が欲しいだの、それが誰のためのものかは問うまでもない。
最終的には新しい防寒具やら、毒女の新刊やら、ユーリのために彼が払った金額の方が明らかに多く、不完全燃焼極まりない。
これでは、なんのための外出だったのやら。
一番贈り物らしい買い物は、ペン胼胝ができて指が痛いと訴えたユーリのために寄った文房具店で購入したものだった。
デパートでガラスケースに入っていそうなペンを、揃いで買って互いに贈りあった。それだけではと、青く着色された綺麗なガラスのペーパーウェイトも添えて。
「いいんだよ。いつもあんたが出してくれるから、こんな機会でもないとおれの小遣いなんて使うこともないし」
「ならいいんですが。それにしても、元気がないですね。お疲れですか?」
「いや、そんなことないよ。楽しかったし。久しぶりに一日リフレッシュしたぞって感じでさ」
「なら、良かった」
優雅な手つきでカップを持ち上げ、口許を和らげる彼は満足そうだから、ユーリはそれ以上不満を続けることができなかった。
「おれさ」
「はい」
「来年も再来年も、あんたへのプレゼントに悩まされる気がするよ。この先、一生かも」
本当に、何を贈ればいいのかが分からない。何だって喜んでくれるのだから、一番簡単そうなのに。
そういえば「今夜は何が食べたい?」という問いに「なんでもいい」と答えるたびに父親が怒られていた。そして、そんな日のメニューは決まってカレーだ。
行儀が悪いと知りながら、ため息混じりに突っ伏し、頭を抱えた。
笑い飛ばされるかと思いきや、笑い声はいつまでもやってこないものだから、どうしたのかと腕の隙間からちらりと見やった先で彼はなにやら難しい顔をしていた。
口許に運ばれたカップは、口につくことなくソーサーに戻される。
「ユーリ」
「なに?」
「来年も再来年も悩んでくださるんですか?」
「当たり前だろ」
なにか、おかしなことを言っただろうか。彼はいつだって当然のようにユーリの欲しいものを用意してくれるのだ。
同じぐらい喜ばせたいと思うのは、当然ではないのか。
「あ、もしかしてクリスマスってのがまずい? そうだよな、普通は恋人とか家族とかと過ごすもんな」
「いいえ、そんな予定はありませんよ」
「でも」
今後のことはわからないではないか。
「来年も、再来年も、こうやって一緒に城下をまわってください」
珍しくユーリの言葉を遮る形で彼が言葉を重ねた。
ユーリ自身、今日もとても楽しかった。
異論はないので一つ頷いたユーリへと、やっぱり珍しく彼は「約束ですからね」と念を押してきた。
(2012.12.27)