2013年 年越し


 ゆらりゆらりと世界が揺れていた。
 揺れるリズムに合わせて、カツンカツンと何かがぶつかる音がする。
 ゆったりとしたリズムは決して不快ではなくて、なかなか意識がはっきりしなかったのだけれど。
「……ん?」
 額に張り付いていた前髪を払ってくれる指先がくすぐったくて、首を竦めた。
「起こしてしまいましたか?」
 頭の上から穏やかな声がする。
 先ほどまで騒がしい宴会場で人ごみに揉まれていた気がするのに、今はすごく静かだ。
 もぞ、と身じろいだ身体はすごく不安定で、ようやく抱えられていることに気付いた。
「おれ、どうしたんだっけ」
 年越しの夜は無礼講。暖かい宴会場で飲めや歌えやの大騒ぎの末に、限界が来た者から端の方に倒れていくという酷いありさまではあったのだが。
 さすがに床に倒れることこそなかったものの、宴のハイテンションも長く続かずに壁際のソファに座るなり寝落ちていたらしい。
 騒いでいる間は気分も高ぶって元気なのだが、一度電池が切れてしまうと再び動き出すのは難しい。
 なにせ、あちらの世界ではまだ未成年。早寝早起きがモットーだ。
「チャンスだったので、攫ってきました」
「チャンスってなんだよ」
 声で既に分かっていたのだが。目を開けたら、思ったとおりの人がいた。
 宴会の途中まで一緒にいたはずなのに、いつの間にか輪から外れてしまっていた。
「あなたは人気者だから、なかなか近づく隙がなかった」
「いちおう主催だしね」
「それだけじゃないですよ。みんなあなたと話したがっていた」
「あんたは違ったみたいだけど」
 人の壁に阻まれてこちらから近づくこともできず、視線を送ってみても笑みを返してくれるだけの姿にやきもきしたものだが。
「自分で歩くよ」
 思い出したらむかむかしてきて、身じろいでみたもののびくりともしなかった。
 降ろして、という希望は叶わずに相変わらずゆらりゆらりと身体が揺れる。
「ようやく二人になれたんですから、もう少しこのまま。部屋まで運ばせてください」
 まるで二人になれるのを待っていたみたいじゃないか。先ほどまでそんな様子を微塵も見せてくれなかったのに。
 そう拗ねたい気持ちもあるのだけれど、きらきらと輝いた瞳がうれしそうに細められるものだから出かけた言葉が引っ込んでしまった。
 重いばかりで窮屈に感じた分厚いマントも、今は暖かな毛布代わりで心地よい。
「眠っていてもいいですよ」
 声音も眼差しもやさしくて、まるで子守唄のように身体中に降って来る。
 子供じゃないんだからと思うのに、あまりにも居心地が良すぎて。
「うん」
 素直に頷くと、もたれかかった胸元が小さく震えた。
 子供だと思われたからか、それとも別のことからか。
 彼が笑った理由が知りたかったけれど、残念ながらもう喋る力もなかった。
「今年もよろしく、ユーリ」
 かけられた言葉に頷くのがやっとだ。
 よろしく、と返すかわりにおれは彼の肩に頭を預けた。


(2013.12.31)