ただそれだけのこと
「コンラッドはどーだった?」
どんな話が聞けるのかと期待に満ちた視線を受け止めて、コンラートは僅かに首を傾げた。
昼間こちらへと戻ってきたばかりのユーリは、婚約者や王佐から手厚い歓迎を受けた疲れなど感じさせずに元気な様子でコンラートの部屋へとやってきた。
先ほどまでは、あちらで過ごした一か月分の出来事を、思い出した順につらつらと楽しそうに語っていたのだが。
「俺ですか?」
「うん、あんたはどうしてたのかなって」
あちらでの時間では一ヶ月だったようだが、こちらでは四ヶ月が経過していた。
ゆるく首をかしげながら、何をしていたのかと思い出す。
四ヶ月……彼があちらに戻る前はまだ秋の終わり頃だった。収穫祭を楽しみ、秋の味覚を堪能しながら、初雪はまだかと気の早い話をしたものだ。
残念ながら初雪は見せてあげることはできなかったが、今夜の冷え具合からして明け方あたりに雪がちらつくかもしれない。きっと彼はよろこぶだろう。
「普通でしたよ」
「普通ってなんだよ。それじゃ、わかんないって」
納得しない様子のユーリに、詳しく話せとせかされる。
「そうですね」
護衛の相手がいないので、兵士の指導を行ったり、執務室で雑用を手伝った。
それでも余る時間を使って、よく城下の見回りにも参加した。
ユーリと二人、お忍びで出かけるうちに顔なじみとなった食堂の店主が、最近顔を見せない坊ちゃんの安否を気にしていた。
工事中で何ができるのかとユーリが気にしていた店は菓子屋となり、なかなかの評判だ。
少しずつ進めていたボールパークの整備も順調で、ようやく外野に綺麗な芝が根付いたところだ。
あれこれ思い出したところで、コンラートは左右へとゆるく首を振った。
「やっぱり、普通でしたよ」
「なんだよ、それ」
不満そうに唇が尖る。だが、不満の言葉がこぼれる前に、コンラートは一つの提案をした。
「急ぎの執務が終わったら、城下へ行きませんか?」
「なんか誤魔化された気がする」
「そんなんじゃないですよ」
言葉とは裏腹に、ユーリの心は既に数ヶ月ぶりの城下散策に繰り出しているのだろう、瞳の輝きが増していた。
既に返事をもらったも同然の楽しそうな様子に、コンラートも表情を和らげた。
誤魔化したわけでも、話したくないわけでもない。
四ヶ月を簡単に振り返っただけで、思い出す記憶はすべて彼に結びついていた。
彼がいる時もいない時も、変わらない。コンラートがしていたことといえば、彼を想う、ただそれだけのことだ。
外出の許可をもらえたら、行きつけの食堂へ行こう。きっと店主が喜ぶはずだ。その後は、評判の店で焼き菓子を買い、ボールパークへ足を伸ばそう。キャッチボールをするのもいい。
他にも彼に見せたいもの、食べさせたいもの、四か月分のあれこれを思い出す。
ようやく叶えられる。
待ち望んだ彼が還ってきたのだという現実を実感し、コンラートは目を細めた。
(2014.01.26)