ダイケンジャーはぴば2014


 まさか彼から、野球以外の誘いをもらう日がこようとは。
 誘われたのは西武ドームでもなければ、僕がマネージャーをしている草野球チームがいつも練習をしている河原でもない。
「どういう風の吹き回しだい?」
 ”友達のお父さん”ことショーマさんがくれたというチケットを使ってやってきたのは、なんとサッカースタジアムだ。
 スタジアムに着いてからも、軍資金をもらってきたからとドリンクにスナックに彼はホストのように僕をもてなそうとしている。
「なんだよ、それ」
「やけに今日は親切だなと思って。しかも、渋谷がサッカーを観にいこうだなんて、明日は雨かな」
「別に、サッカーが嫌いだなんて言ったことないだろ。それ以上に野球が好きなだけで。たまにはサッカーもいいかなって思っただけだよ。ほら、試合はじまるぞ」
 嘘がうまくない彼を助けるように、試合開始を告げるホイッスルが鳴り響いた。
 そういえば。
 野球は気付いたら始まっていることが多いと言って、渋谷と議論になったこともあったっけ。
 僕がボールがめまぐるしく動く一瞬たりとも気が抜けない感じが好きだと話せば、渋谷はバッター一人一人に対してピッチャーとキャッチャーが協力してじっくりと攻略していくのがたまらないのだと訴える。
 基本的に、僕らはとても似ていない。
「あー、惜しい!」
 ふいに隣から大きな声が上がった。
 ゴールへと勢いよく蹴りこまれたボールは、吸い込まれるようにキーパーの手の中におさまっていた。
「惜しかったな、今の」
 身体全体でくやしさを表現する彼を見ていたら、つい噴き出していた。
「なんだよ」
「いや、君って本当におもしろいなと思って」
 好きなスポーツも、趣味も、考え方も違う。似ている部分より似ていない部分の方がより多く見つかりそうなのに、こうして僕らが一緒にいる理由は、彼のこの性格のおかげかもしれない。
 悪く言えば、単純でわかりやすい脳筋族。よく言えば大らかで表裏がない彼は、一緒に居ても気が置けない。
「失礼だな。おれがせっかく」
「せっかく、なに?」
 うっかり口を滑らせた彼に、意地悪く尋ねる僕の頬はいつもより緩んでいたかもしれない。
「何でもない。ほら、サッカーの試合は一瞬も目が離せないんじゃなかったのかよ」
 試合を観るふりをして誤魔化そうとした彼は、すぐにボールを追うのに夢中になって、大声で応援をはじめた。
 切り替えが早いというか、単純というか。
「あー、またシュートはずれた。ほら村田。おまえも応援しろよ!」
「してるさ。僕はこうやって静かに念じることで力を送って」
「意味わかんねえよ!」
 また、悔しそうな顔をした彼が僕に声を出せと訴える。
「やれやれ。あんまりそういうのは得意じゃないんだけどな」
「なに言ってんだ。野球もサッカーも、応援っていうのは選手の力になるんだからな」
「わかったよ。仕方ないなあ」
 めったに来ることのないサッカー観戦とジュースとスナックの理由に気付かないほど、僕は鈍感じゃない。
 遠まわしの誕生日プレゼントはバレバレで、相手が彼じゃなかったら本当に隠す気があるのか疑うほどだ。でも、そんなバレバレな祝い方も嬉しかったから、僕は気付かないふりをしながら仕方ないなというポーズで親友に合わせて声を張り上げた。




ダイケンジャー、はぴばー!


(2014.06.06)