2014年 年越し
夜通し行われる年越しの宴は、毎年にぎやかだ。
豪華な食事と優雅な音楽。そして人々の笑顔。
先ほどまで、その輪の中心にいる人物のすぐ傍らにいたはずなのに。
どんどん膨れ上がる人垣に、若い主の姿はすぐかき消されてしまった。
時折、どっと沸きあがる笑い声から、中心にいる人の表情も容易く思い浮かべることができたけれど。
戴く王が親しまれ愛される姿というのは仕える身とすればこの上もなく嬉しいことだ。それが大切な名付け子であれば尚のこと。
護衛として気を配ることは忘れずに、けれど、場を壊すこともしたくなくて、少し離れた位置から様子を見守るコンラートが純粋な喜びを感じられていたのは、時折向けられる視線に笑顔を返せていた僅かな時間だけだった。
視線を遮られてしまえば、人垣を掻き分けてしまいたい衝動がむくりと顔を出す。
そんなことができるはずもなくて、コンラートはそっと人の輪へと背を向けた。
「こんなところにいた!」
コンラッド、と誰よりも親しげに名を呼ぶ声に、コンラートはゆっくりと振り向いた。
人気のないバルコニーへと現れたのは、一向に引く気配のない人垣に囲まれていたはずの人だ。
「うー、さむっ。なんでこんなところにいるんだよ。探しちゃっただろ」
ぶるりと身を震わせて、羽織っていたマントの前を押さえた若い主が、足早に近づいてくるのを見つめながら、コンラートはどうしたのかと瞬いた。
「どうしたんですか、ユーリ。何かありました?」
「何かって。あんたがいないからだろ」
なに言ってんだと責める口調に、僅かに目を瞠る。けれど、コンラートの驚きに気づかぬ彼は隣へと並んで手すりに手をかけると、白い息を吐き出して笑った。
「さっきまでいたはずなのに、ちょっと見えなくなったと思ったらいないんだもん。あんた、おれの護衛だろ。いてくれないと」
あの場には兵士たちも配置されていた。人垣に負けじとギュンターやヴォルフもついていたはずだ。護衛という意味では、コンラートである必要はないのだが。
たぶん、深い意味などないのだろう。そう分かっていても、必要とされている事実にコンラートの胸は震えるのだ。
「こんなところにいて、寒くねえの? あー、もうこんなに手が冷たい」
二の腕へと触れた手が、布地の冷たさに驚いて一度離れた。けれど、すぐに戻ってきた手が次に触れたのは、コンラートの指先だ。
利き手が暖かな温もりに包まれる。これでは彼が寒いと思うのだけれど、振り払うには惜しすぎて。
「でも、酔いさましにはいいかもな」
「お酒を?」
「いや、人酔い」
相変わらずコンラートの利き手は温かい。持ち上あげられて、どうされるのかと見守れば、はぁ、と温かな息を吹きかけられた。何度か繰り返した彼が、もう片方の手までとって自らの柔らかな頬を押し付けてくるものだからたまらない。
冷たいと笑う彼の笑顔に、コンラートは呼吸も忘れて魅入られた。
(2014.12.31)