子コンと子ユーリ 2
つい長電話をしてしまった。
「ゆーちゃん? あら??」
お気に入りの白いらいおんのぬいぐるみを相手に、一人遊んでいてくれた息子の姿が、いつの間にか見当たらない。
閉め忘れたらしい廊下へ続くドアが開いている。慌てて探そうと廊下に出た美子は、探すまでもなく座り込んでいる息子を見つけて、ほっと胸を撫で下ろした。
「ゆーちゃんったら、廊下は冷たいでしょう」
「うー…」
抱き上げてやると、嫌がるように腕の中で暴れだした。にっこり笑っている時は天使だが、こうなるとちょっと手を焼く。
「あら、ご機嫌斜めね。ママ、お夕飯のお買い物に行こうと思ったんだけど」
ベビーカーでのお出かけに、息子の機嫌は直ってくれるだろうか。身体を揺らしてリズムをつけ、背をあやすように叩いてはみるが、腕の中の息子は一向に落ち着いてくれない。それどころか、しきりに玄関へ向かって手を伸ばしている。
「どうしたの、ゆーちゃん」
「コン」
コン、とユーリが繰り返し呼ぶのは、我が家のもう一人の息子のことだ。残念なことに本人には居候だと思われているようだが、美子自身は預かったからには息子も同然だと思っている。
「あぁ、そっか。ゆーちゃん、賢いわね」
時計を見れば、三時を指していた。小学校も終わり、そろそろ帰ってくる時間だ。
「じゃあ、コンちゃんが帰ってくるまで、ここで待とうか」
「コンー」
ユーリが寒くないようにと座布団を敷いてやる。お気に入りのライオンを与えると、ご機嫌によく分からない唄を歌いだしたのを見て、美子はやれやれと笑った。
ちょうど良いタイミングで玄関のドアが開いた。
「おかえり、コンちゃん」
「コンー」
玄関でのお出迎えに驚いたのか、目を丸くしている少年へと揃って笑いかける。
「ただいま帰りました」
顔が赤い。少しだけ乱れた息、もしかしたらユーリが泣いていないかと心配してくれたのかもしれない。
「走ってきたの?」
照れたように小さく笑んで頷いたコンラッドへと、美子は抱き上げた息子を差し出した。
「ママはお買い物に行ってくるから、コンちゃんはゆーちゃんと遊んであげてくれる?」
「はい」
「ホント、ゆーちゃんはコンちゃんが大好きね」
受け取めてくれる少年の手が、愛息をとても大切に抱きしめてくれることを知っているから。
「ママ妬けちゃうわ」
言葉とは裏腹に、美子は安心して預けることが出来るのだ。
(2009.12.08)