子コンと子ユーリ 3


「コンちゃん、見て!」
 バァンっと勢い良くドアが開いた。
 普段は子供にもプライバシーは必要だとノックを欠かさない美子なのだが。
 参考書に落としていた視線を上げたコンラートは、瞬き一つしてゆっくりと立ち上がった。
「どうしたんですか、美子さん」
「見て見て」
「みてみてー」
 美子のスカートの後ろに隠れていたユーリがひょっこりと顔を出した。黒い柔らかな髪に結ばれた青いリボンが、軽く揺れる。
「可愛いでしょう!さすが我が子よねっ」
「かわい、でしょ?」
 促され前に出たユーリが、美子を真似てにこぉっと笑った。
 青いワンピースに、白いレースのエプロン。さしずめ不思議の国のアリスといったところか。
「えっと…」
 確かに、可愛らしかったのだが。それを口に出すには些か躊躇われた。
 ユーリは男の子だと美子もよく分かっているはずなのだが、娘が欲しかったという想いが時折こうやって暴走を見せる。ユーリが女の子と見間違えるほどの容姿をしていることも原因かもしれないが。
「どこにお嫁に出しても恥ずかしくないわね!」
「美子さん、ユーリは男の子ですから…」
 母と同じように、笑顔で褒めてもらえると思っていたユーリが、予想とちがうコンラートの様子に表情を曇らせた。
「ゆーちゃん、かわい?」
 泣き出しそうにユーリが顔を歪める。慌ててコンラートはしゃがみこんで視線を合わせた。
「うん。ユーリは、かわいいよ」
「ほんと?」
「本当です」
 しっかり頷いたコンラートを見て、美子はにっこりと笑った。
「ゆーちゃんがお嫁に行くならきっとコンちゃんのところね」
 さらりとこの母は何を言うのか。
 恐ろしいことに、息子に向かって「コンちゃんのお嫁さんになる?」などと尋ねている。
「なるー」
 意味がわかっているのかいないのか。当のユーリはキャッキャッと笑いながらコンラートの首に飛びついてくる。
「えっと、ユーリ。お嫁さんって、わかる?」
「わかんない!」
 返された元気なお返事に、ユーリを抱きとめたままコンラートは天井を仰いだ。


(2009.12.11)