けっコンユ


「コンラッド、結婚しよう!」
「はい?」
 ドアを開ける前から、そこにいるのが誰だか分かっていた。だから、いつも通りに自然と口元をほころばせながらドアを開けたコンラッドは、挨拶もなく突然告げられた言葉に目を丸くした。

「いきなり、どうしたんですか」
「どうしたもこうしたも、言葉のままだよ。結婚しようって言ってんの」
 どうしてそうなったのか。
 とりあえず落ち着くようにと紅茶を入れようとした手を取られ、並んでカウチに座ることになった。がっちりと掴まれた手首が、コンラッドが逃げることを許さない。たとえ弱い力であっても、この手を振り解く術をコンラッドは持ち合わせてなどいないのだが。
「昼間、あんたがいない間に、グリエちゃんと城下に出たんだよ」
 別件の仕事で、昼間は側にいられなかった。
 天気が良かったし、特に急ぎの仕事もなかったので許可をとっての行動だろうが。出来ることならば自分がいる時にしてもらいたかったと、口に出せぬ我侭な感情を抱えて無意識に眉根が寄る。
「結婚式してたんだ。花嫁さん、真っ白なドレス着て、すごい幸せそうに笑っててさ」
 対照的にユーリの表情は楽しげだ。
 話に夢中になっているようでいて、ちゃんとコンラッドのことも見ているらしい。自然と伸びて来た指先が、眉間へと触れて優しく撫でていく。
「急に、あんたを幸せにしてやりたいなって思ったんだ」
 みんなに祝福されて、世界で一番幸せそうだったと、ユーリが微笑う。
 その笑顔を見るだけで、コンラッドの胸が幸福で満たされるというのに。
「俺は、いまでも幸せですよ」
「知ってるけど、もっと幸せをあげたいんだよ。おれは魔王で、あんたは護衛で。それが嫌なわけじゃないんだけど、たまにもどかしいんだよな。もっと近い関係になりたいっていうか」
 ただ一人だと既に誓い合ってはいるけれど。
 それを形にしたいのだと、必死な言葉で告げる言葉をききながら、コンラッドは掴まれていない方の手を伸ばす。
「俺が花嫁ですか?」
「うん。あ、ドレスは着なくていいけどな」
「あなたなら似合いそうなのに」
 握られた拳で背を叩かれた。痛みを伴わないその振動さえもが幸福で。
「ありがとうございます、ユーリ」
「うん。幸せになろう」
 幸福の形を確かめるように、コンラッドは恋人の身体を抱きしめた。


(2010.03.26)