風邪っぴき2
週末の予定を決めようと携帯を手に取った。
先週は風邪を引いた挙句、ずっと寝込んでコンラッドに看病させてしまったから、今週こそは一緒に出かけたい。お礼とお詫びもしたい。
別にいらないと言っているのに、おれからかけた電話はコンラッドにすぐに切られた。電話代の心配をしてくれるのはありがたいけど、一方的に世話になるのも気が引けるんだよな。
これが社会人と学生の差なのか。でも、五年後も変わらない気がする。
切れた携帯の画面を見ると、すぐに着信音が鳴り響いた。おれの愛する球団の応援歌。
通話ボタンを押して話し始めたら、感じている申し訳なさなんてすぐに消えてしまうんだけど。
「あれ、コンラッド。風邪ひいた?」
挨拶をして、他愛のない近況を話して。いつもより声に張りがない気がした。
「そんなことないですよ」
否定の言葉の前に、少しだけ間があった。気のせいかなって思う程度だけど、こういう時のおれの勘っていうのは当たるのだ。
「おれに嘘ついたって無駄なんだからな。こないだのおれの風邪がうつったんだろ」
「大丈夫ですよ。もう大分良くなったんです」
「なんだよそれ」
風邪を否定するのはやめたらしい。
こうやってされる事後報告は、気遣いでもなんでもない。先週、家に帰ろうとしたおれを引き止めてまで看病してくれたくせに。
「わかった。もう今週はコンラッドと遊ばない! 週末は家で大人しく寝てろよ!!」
うつしてしまった罪悪感と、頼ってもらえなかった苛立ちのままに通話を強制終了。
そのままベッドに投げつけた携帯からまた着信音が鳴ったけど、無視。
クローゼットを開けて、コートとマフラーを取り出した。帽子に手袋と真冬並みの重装備なのは、ミイラ取りがミイラにならないため。
いつのまにか着信音はやんで、しばらく静かになったと思ったら今度はメールの受信を告げる時代劇の主題歌が流れた。
『ごめんね、ユーリ。心配をかけたくなかったんです。本当に大したことなかったんですよ』
メッセージを確認してから、コートのポケットに携帯を突っ込んで部屋を出る。
返事はしない。おれが行くまでの間、反省すればいいんだ。
「お袋ー、おれちょっとコンラッドんとこ行ってくる!」
行き先が行き先なので夜だというのに心配されることもない。ママでしょと、のんびりした声で訂正がはいるのを背後に聞きながら急いで外に飛び出した。
週末の遊びの予定は中止。
先日された看病を思い返しながら、まだ少し冷たい風の中で通いなれたマンションを目指した。
(2010.04.01)