風邪っぴき その後


「つまんない」
 基本的にテレビは野球の試合しか見ないおれは、内容が頭に入ってこないバラエティ番組が流れるテレビの画面を消した。
「すみません、ユーリ」
 すぐ頭上から降ってくる謝罪の声に、顔を上げると苦笑いをするコンラッドの顔と目が合った。
 一緒にソファに座っているけど、隣同士じゃない。コンラッドの足の間に座らされたおれは、その狭い場所から落ちないようにしっかりと腹でホールドされている。
「ちがうよ」
 つまらないのはコンラッドのせいだけど、コンラッドが考えているような理由じゃない。
「だってあんた、すぐに治っちゃうんだもん」
 風邪を引いたコンラッドの看病をするつもりでマンションまでやってきたのに。皿洗いや野菜の皮むきなんかは、普段から手伝わされているので得意だけど、実際の料理はまったく出来ない。おかゆなんて作れるはずもなく、結局はコンビニで買ってきた消化の良さそうなものを食べさせただけ。
 薬を飲ませて、コンラッドの反対を押し切って、結局いつも通り隣で眠って。朝起きた時には、コンラッドの熱はすっかり下がっていた。
「ですから、予定通り出かけても良かったんですよ」
「だから、ちがうってば。出かけたかったんじゃなくて、あんたの看病がしたかったの」
 もともと微熱だったというのもあるが、これは予定外だ。週末しっかり、看病するはずだったのに。
「今日は一日家にいるにしても、明日なら出かけてもいいと思うんですが」
「ダメったらダメ」
 くやしいから、予定通り外出は中止にした。コンラッドはいつだって無理をするから、ぶり返さないように家で絶対安静。
「それではユーリがつまらないでしょう?」
「だから、それはいいんだよ。看病するつもりで来たんであって、遊びに来たわけじゃないから」
 当初の予定と変わってはしまったけれど、別にこうしてのんびりすることが嫌なわけでもないし。
「あ、体調が良くなったことは良かったって思ってるからな!」
 少しだけおれを支えていた腕の力が強まった。肩口に顔を埋められると、頬に柔らかな髪が触れてくすぐったい。
「ええ、わかってます」
 昨夜電話で聞いたのより、声が柔らかい。言葉通り、やっぱり元気でいてくれるほうが嬉しい。
「ユーリがいてくれるだけで、元気が出るんです」
「それは良かった」
 恥ずかしい言葉を必死で受け流しながら、もうすっかり元気だと証明するようにおれの腹の上を這う手の甲を、きゅっと抓ってやった。


(2010.04.12)