獅子次男1
珍しく切羽詰まった様子の親友に呼び出された僕は、いつもの駅前のファーストフード店にいた。
「で、どうしたんだい、渋谷」
「悪いな、村田。猫みたいなのを飼うことにしたんだけど、世話の方法がわからなくてさ」
猫みたいとはどういうことか。猫は猫でしかないだろう。
この親友は度々動物を拾う。優しい性格故に放っておけないのだろう。捨てられた動物を気の毒に思わなくもないが、僕なら横を通り過ぎていく。
結局、動物ではなく親友を放っておけない僕は、毎度引き取り手探しを手伝うことになるのだけれど。
「貰い手を探すんじゃなく、自分で飼うのかい?」
「なんか、放っておけなくてさ。それに、うちじゃなきゃ嫌だって言うから」
猫がしゃべるはずはないだろう。それほどまでに懐かれたということか。
「僕は動物を飼ったことがないから、ろくなアドレスが出来ないと思うよ」
それでも思いつく限り、食事や風呂なんて基本的なことから、トイレの躾などまで伝えた言葉を、親友は授業より真剣にノートにとっていく。
「猫なら室内飼いだろうけど、念のために首輪は忘れずにね」
「首輪か。苦しくないかな」
「野良と間違われて保健所に連れていかれるよりマシだと思うよ」
気がすすまない様子ながらもノートに首輪の文字が追加された。
「どんな猫なんだい?」
「茶色でカッコよくて、大型犬みたいなやつ」
最初の二つはいい。ただ、最後の一つが引っ掛かる。
だが深く追及する前に、親友は「コンラッドが気になるから」と帰っていった。
親友宅を訪ねた僕が、今日のアドバイスを後悔するのは数日後の話だ。
(2010.09.08)