獅子次男2
僕は、親友が飼い始めた猫を見に来たはずだった。
猫みたいなものと言われた気もするが、まさか獣の耳と尻尾をつけた成人男性だなんて誰も思うまい。
「渋谷…、コレは何かな?」
おもしろくもないが、これがジョークであるならば僕は喜んで笑ってみせただろう。
「コンラッドに決まってるだろ」
僅かな希望を胸に尋ねた僕は、一番聞きたくない回答を貰って頭を抱えることになった。
コンラッド…それは最近、ことあるごとに親友の口から出てきた猫(みたいなもの)の名前だ。
「はじめまして。俺のユーリがいつもお世話になってます」
親友の名前の前についた余分な言葉も、爽やかすぎる笑顔と共に親友を腕の中に閉じ込めている男もあえて意識から逸らすことにした。
ドアを開けるなり当たり前のように捕獲され、あまつさえそれを受け入れてしまっている親友に視線を向けた僕は、
「猫?」
と、たくさんある疑問の一つを口にした。
「本当はライオンなんだけど、そんなこと言うと村田が驚くと思ってさ。内緒にしててごめんな。でもコンラッドは大人しいから!」
確かにライオンは猫科だが、聞きたいのはそんな言葉じゃない。
「えっと…」
「猫科なんだけど、結構犬っぽいんだぜ」
以前聞いた大型犬という単語が頭をよぎる。
「こら、コンラッド。くすぐったいって」
飼い主の頬に擦り寄る姿は、本当に犬ならばよくある光景なのだろう。
犬ならば。
あいにく、僕にはこの生き物が犬にも猫にも見えはしない。
「すまない、渋谷。用事を思い出したよ」
もはやかける言葉も、この状況を受け入れられる広い心も持ち合わせていない僕は、靴さえ脱がないまま親友の家を後にした。
(2010.09.09)