らいおんず


「今日も勝った!」
「良い試合でしたね」
 野球中継が終わったテレビは、そのままニュースへと切り替わる。セ・リーグに続いて、本日のパ・リーグの試合結果が紹介された途端に、一度落ち着きかけたはずのユーリのテンションが跳ね上がった。
 試合中さながらに拳を握りこんだユーリの視線は、テレビに釘付け。
 並んで座るソファで少しだけ開いていた隙間をコンラートが詰めても気付かれることはなく。ならばと、腰に腕を絡めて、揺れる黒髪に唇で触れようとした途端に、
「……っ」
 衝撃を受けた顔をコンラートは片手で覆った。
「あれ? ごめん!」
「いいえ、大丈夫です」
 なかなかのクリーンヒットではあったけれど言葉どおり大丈夫であることを示すように手を振れば、安心したユーリの視線はすぐにテレビへと戻り、振られる拳を避けるためにコンラートは詰めたはずの距離をまた開けることになった。



 ユーリの応援するチームは春先から不調で、夏には最下位に落ち着いていたのだが、今月に入ってから生まれ変わったかのように爆発的に連勝を重ねている。連敗で作った借金もいつのまにか返し、いよいよ上位に食い込もうかという勢いで、順位と同様にユーリの機嫌もうなぎのぼりだ。
 コンラートの視線の先には、満面の笑顔。
 中継を見るたびに肩を落としていた姿を見てきたコンラートとしては喜ばしいことのはずなのだけれど、こうもテレビにばかり夢中になられては素直に喜んでばかりもいられない。
「ユーリ」
 そっと名を呼んでみる。
 強引にこちらを向かせることは簡単なのだ。こんなに近い距離にいるのだから。
「んー?」
 返される生返事を受け、コンラートは考える。
 ちょっと手を伸ばして、ユーリの手からリモコンを奪うことを。先ほどまでの三時間、隣にいるのにまったく見向きもしてもらえなかった時間を取り戻すことを。
「……」
 そうして、小さくため息を着いた。
「週末はホームで試合ですし、一緒に観に行きましょうか」
「マジ?」
 途端に、テレビに向いていた満面の笑顔が、コンラートへと向けられる。コンラートが世界で一番綺麗な色だと思っている黒い瞳を、めいいっぱいキラキラとさせて。
「ええ。外野と内野どちらがいいですか?」
「外野!」
 曇らせるより、こうして輝いていてくれるほうがいい。
 シーズンが終わるまで、あと一ヶ月か、二ヶ月か……決して短い期間ではないけれど。
 礼と共に飛びついてきた重みに少しだけ慰められて、コンラートはもう少しだけ我慢することを選んだ。


(2011.09.27)