無邪気系小悪魔さん


 忌むべきものだと教えられてきた黒い色を美しいと感じたのは、彼と出会ってからだ。
 髪も、瞳も、羽も、尾も、彼を取り巻くすべてが美しい。
 もちろん、見た目だけではない。
「コンラッド」
「はい」
 薔薇を連想させる唇の呼びかけに笑みを返せば、間近にある漆黒の瞳が笑みの形を作り、甘える仕草で両腕が首へと絡められた。
 自ら自由に空を飛びまわることができる翼を持っているにもかかわらず、こうしてコンラートの腕に抱かれて運ばれることを無邪気に喜んでみせ、頬を摺り寄せてくる仕草は、自然とコンラートの笑みを深くさせる。
 なんとかわいらしいことか。
 羽のように軽い身体を大切に抱きかかえて運ぶ間も、彼は自由だ。
 コンラートの髪に触れ、眉に残る傷に触れ、時折頬に口付ける。そうして最後には唇同士を重ねて、楽しそうに笑うのだ。
「ユーリはキスが好きだね」
 何も知らぬ彼に口付けを教えたのは、コンラートだった。
 無垢な子供に対する罪悪感や葛藤に悩んだのも、今では過去のこと。
「あんたとすると、気持ちがいいから」
 再び唇を触れ合わせたユーリが、無邪気に笑う。
「ああ……」
 コンラートは小さく声を零した。
 やはりどんなに幼くとも彼は確かに悪魔なのだと、思い知らされるのはこういう瞬間だ。
 悪魔はその美貌と甘言で人や天使を魅了するという。
 どうしようもなく彼に魅せられていた。


(2013.12.25)