クリスマスデート(パラレル編)
デートの度に色々な場所に連れて行ってくれるコンラッドが、普段とは違う雰囲気の店を選んだ。
「今日は特別だから」
付き合い始めたのが夏だから、初めて迎えるクリスマス。
ドレスコードがあるレストランはおれには敷居が高すぎたけれど、終始楽しかったのは個室だったからか、コンラッドが一緒だったからか。
イルミネーションが美しい街の中、人ごみに紛れて手を繋いで歩いた。いつもならそんなことしないのに、握られた手から逃げなかったのはおれも浮かれていたからかもしれない。
「どうしましたか?」
街中に溢れるクリスマスソングもクリスマスツリーも、さっきまではすごく楽しかったのに。
少しずつ鈍っていった足が、いよいよ鉛のように重く感じられて動きを止めた。
「あのさ……」
一緒に止まってくれたコンラッドとおれを、人の波が避けていく。
もう五分も歩けば駐車場だった。
二十二時−−いつものデートのタイムリミットまであと三十分。
にぎやかな雑踏の中、コンラッドが顔が近づいた。街中に溢れるイルミネーションよりもきれいな彼の瞳が、おれの顔を覗き込み、おれだけを映している。
優しく輝いているのを見たら胸が締め付けられた。
「……もうちょっと、一緒にいたいなって」
楽しい時間はあっという間で、終わってしまうのがどうしようもなくさみしい。
どうか。
どうか、大人の顔で送り届けたりしないで欲しい。
「まいったな」
子供じみたワガママは案の定彼を困らせてしまったようで、慌てて取り消そうとしたけれど遅かった。
「ごめ……」
強く手を引かれた次の瞬間には、コンラッドの腕の中にいた。
「帰したくなくなってしまうよ、ユーリ」
じゃれあうみたいに抱きしめられることはよくあった。
でも、こんなに強い力も、切ない声も初めてで、息ができない。
「……いいよ」
どうにかおれはそれだけを搾り出し、彼のコートの背を握り締めた。
コンラッドが言ったのだ。
だって、今日は特別だから。
(2013.12.25)