人間×鬼っこ


「寒くないですか?」
「ぜんぜん」
 コンラートの問いに、鬼の子は無邪気に笑った。
 あっけらかんと否定されてしまったら、それ以上は上着を勧めることもできない。
 コンラートは自身が脱いだ上着を腕にかけた。
「意外とこれ温かいんだぜ」
 のほほんと笑う彼は、頭に生えた二つの角と同様に『鬼』と呼ばれる種族のトレードマークである虎柄のパンツを見せびらかすように両手を当ててみせた。
「ユーリは元気だね」
「おう」
 健康的な少年が陽のもとにさらす褐色の肌はひどくまぶしくて、コンラートは目を細めた。
 細く長い手足も、肌とは異なる薄紅に色づいた胸元も、虎柄のパンツから僅かに覗く臍も、コンラートの目にはひどく危うく見えるのだが、本人はそのことに気付かない。
 不埒な感情を抱く者もいるのではないかと心配してしまうのは、コンラート自身に覚えのある感情だからなのだろう。
 上着を着ませんか?とストレートに聞いたこともあるのだが、動きにくいからと素気無く却下されてしまったことは記憶に新しい。
 どうしたものか。
 考えながら、少年の肘をとって引き寄せた。
『人間は怖いって聞いたけど、あんたはそんなことないな』
 人里との境界で初めて遭遇した時のまま、疑うことをしらない彼は笑顔で腕の中に納まる。
 本当に、危なっかしい。
「あまり無防備な姿を晒すと、こわい人間に食べられてしまいますよ」
 努めて真面目に告げた言葉に、腕の中の目が丸くなる。
 冗談ではないのだと教えてしまいたいような、このままの彼を大切にしたいような、複雑な感情を抱えたままコンラートは途方にくれるのだった。


(2014.02.14)