バレンタイン(2014年)
人前ではさすがにやらないけれどこういうことはよくあって、だからおれは口許にのびてきたコンラッドの指先に反応して口を開けていた。
「ん……」
彼は時々こうやって手ずからお菓子を食べさせてくれたりする。
子供扱いするなと思う反面、彼のそういった甘やかしはどこかくすぐったくて嫌な感じがしないから不思議だ。
「……ぁ」
口の中に甘い味と香りが広がるのはいつものこと。
ただ、いつもと少し違って口の中に入ってきたのがお菓子だけではなかった。
お菓子を摘まんだ二本の指は離れることなく、おれの舌の上にチョコレートを押し付けた。
融点の高い上質のチョコレートは触れたそばから溶け出して、唾液と絡んで口いっぱいに広がった。
彼の指はいつまでもおれの口の中、滴るチョコレートを舌の表面に擦り付けてくるからたまらない。 深い口付けを交わす時の彼の舌の動きを思い出させて、背中がぞくりと粟立った。
「おいしかった?」
ようやく指が離れるなり顔を覗き込んでくる彼を、つい恨みがましく見上げてしまった。
「あんたなあ」
顔が火照ってしまったのは彼にもばればれなはずで、どこか楽しそうな笑顔がくやしい。
「おいしくなかった?」
「……おいしかった」
重ねられる質問に答えない選択肢もあったけれど、確かにチョコレートはとてもおいしかったから。 小声で正直に答えたら彼の指が二つ目のチョコレートを摘まんで持ち上げた。
そのままくれるのかと思いきや、チョコレートの行き先は驚いたことに彼の唇。
潰さぬようにやわらかく食んだそれを、半分おれに分け与えた彼は「本当だ」と楽しげに目を細めた。
(2014.02.14)