子次男


 目が覚めたら、間近に人がいてぎょっとした。
「うわっ」
 一気に目が覚めると同時に、自分を覗き込んでいた人の容姿に気付いて更にぎょっとした。
 瞳も、髪も、黒い。
「おはよう、コンラッド」
 親しげな笑みは、鮮やかできれいだ。
 母もとても美しいひとだけれど、もっと特別に見える彼は一体誰なのだろう。
「コンラッド? どこか体調悪いのか? おーい?」
 呆然と見つめるおれの前でひらひらと手のひらが揺れていた。
 瞬きを数度繰り返す間に、その手は頭の上へと移動して、くしゃくしゃと髪を撫でていった。
 髪を乱す動きは不思議と不快に感じないのは、どうしてだろう。
「あの、あなたは?」
 どなたですか。
 高貴な身分であることは見た目からしても間違いない。
 けれど、なぜそのような人が俺の目の前にいるのだろう。
 それに彼はどうして俺のことを知っているのか。
 分からないことだらけだ。
「そっか。記憶もないんだな。借りてきた猫みたいでかわいいな」
 何かを知っているらしい彼は、おれの問いにひとり納得したらしい。
 楽しそうに唇の端を引き上げながら、宝石のような黒い瞳を細めた。
 彼の笑顔の方が、よっぽど猫みたいだ。
 そう思うのにうまく言葉がつむげない。
 なにが楽しいのかわからないけれど、彼はお気に入りのぬいぐるみにするように俺を抱き寄せて、あちこちを撫で回した。


(2014.04.26)