コンラッドはキスがうまい。
付き合いはじめてしばらく経つと、恋人らしい空気みたいなものが少しずつわかるようになってきた。
「……あ」
今みたいな瞬間がそうだ。
ふいにおれの手をとった彼が、顔を覗きこんできた。
来るかなと予想をしていても、咄嗟に身構えてしまうのは、たぶんおれと彼の経験値の違いだろう。
「ユーリ」
彼が、おれの名を呼ぶ。いつもより、甘さを増した声。
いつもと違う笑顔。少しだけ照れの混じったいたずらっぽい表情が、キスをしていいかと聞いていた。
おれはぽーっと見とれてしまったあとで、握られた手をぎゅっと握り返した。
「……んっ」
唇に押しあてられるやわらかな感触。
目の前には、すきなひと。
自分のものではない体温を感じる瞬間というのは、とても恥ずかしくて、そしてひどく幸福だ。
(2014.05.20)