キス


「ユーリは」
 唇を離すと、追いかけるように目の前の閉じられていた瞼が持ち上がった。
 余韻を残してぼんやりとした瞳が、なに、と問いかけてくるのを見て、つい笑みがこぼれた。
「キスが好きだなと思って」
 頭一つ分の身長差を埋めるには恋人の協力も不可欠だ。
 頬に手のひらで触れただけで、触れ合いやすい角度へと僅かに顎が持ち上がる。
 緩く閉じられた唇を啄ばむと綻ぶように薄く開いてより深く触れ合うことを許してくれるから、許されるままに口付けを深めると息を詰める鼻から抜ける甘い声が零れた。
 反応のひとつひとつが、かわいい。
「……なっ」
 ぼんやりしていた瞳が一度瞬いた後、まあるく変化を見せた。
 次いで、カーッと音がしそうな勢いで朱色に顔を染めた彼は、ぱくぱくと唇を開閉させたあとで身体を引こうとした。
 何を照れることがあるのだろう。
「嬉しいなって、言いたかったんですよ」
 逃がすつもりもなく、腰にまわした腕に力を込めて引き寄せる。
 背を反らせる形になった彼がバランスをとるために縋り付いてくるので、なおも距離をつめて顔を覗き込んだ。
 たぶん本人は気づいていない。
 鼻先が触れ合うほどに顔を近づけると同時に彼の瞼が下ろされたのは、その先の行為を予感しての条件反射なのだろう。
 素直な彼を、ことさらいとおしく感じる瞬間の一つだ。
「俺も、好きですよ」
 熱っぽく囁きながらもう一度唇を重ねると、込めた気持ちの分だけ自然と口付けは深いものへと変わっていった。


(2014.09.16)