守る人と守られる人
《ボディガードとクライアントパロ》
「あなたには命を狙われている自覚がないんですか!」
激情に任せてテーブルを叩いたコンラートは、自らの失態を思い返して奥歯をかみ締めた。
「あるよ。だからコンラッドがボディガードとして来てくれたんだろう?」
大きな音に目を丸くしながらも、悪びれた様子もなく返された言葉に腹の底がカッと熱を持つ。
常に命を狙われていると言うのに、彼には危機感というものが足りないのだ。
いくらコンラートがボディガードとして様々な配慮をしたとしても、本人に自覚がなく不用意な行動をすれば意味がないというのに。
聞こえるようにため息を吐きながら目元を手で覆ったコンラートは、そのままソファに座り込んだ。
「あんたが守ってくれるんだから大丈夫だろう?」
試されての言葉ならば、こんな契約など破棄してやるのに。守る側と守られる側には信頼関係がなければ助けられるものも助けられない。
だが、彼は自ら口にした言葉を信じて、欠片も疑っていないのだ。どんな状況でもコンラートが彼を守りきると信じている。
こんな厄介なクライアントは初めてだ。
「あなたって人は……」
銃口が彼に向いた時、コンラートは酷く取り乱した。
彼を失うかもしれないという事実が、任務の失敗以上の意味を持って重く圧し掛かり、冷静さを奪った。
「クソッ」
「あんたでも悪態をつくことがあるんだな」
傍らに近づいた彼はおもむろにコンラートの頭を抱き寄せた。胸元に引き寄せて髪を梳くのは慰めているつもりだろうか。
「……あなたって人は」
誰のせいだと思っているのか。こんな子供に振り回されることになるなんて。
厄介なことになってしまったと後悔したところでもう遅い。
一番厄介なのはきっと、彼の言った通り命を懸けて彼を守ると決意してしまった自分自身なのだと自覚しながら、コンラートは目の前の細い身体を引き寄せた。
(2014.09.16)