夜のひととき
ソファの上に足を乗せて、膝を抱えた。
身体を丸めて、膝の上へと頬を乗せる。視線を向けた先は、部屋の片隅にある書き物机だ。
正確な時間は覚えていないけれど、風呂に入る前からだからかれこれ一時間になるだろうか。机に向かう横顔は真剣そのもの。
邪魔してはいけないと口を噤むと、静まり返った部屋の中にはペンのすべる音と紙を捲る音だけになった。
書類しか見ていないと思っていた彼と、ふいに目があった。顔は相変わらず書類に向けたまま。視線だけをよこしてくる目許がほんの少しだけ緩んで、笑みを作る。
それだけの仕草に、視線が泳いだ。
「もう少しで終わりますから」
じぃっと見つめた理由は、せかしたかったからではないのだけれど。
無意識に含んでしまっていたかもしれない気持ちを見透かされた気がして、ふい、と視線を逸らした。
「待っているのもつまらないでしょう。先に眠っていてもいいですからね」
「いい。待ってる」
それ以上の言葉を重ねることはなく、彼は再び書類仕事に戻った。きっと、本当にもう少しで終わるのだろう。
視線が外れるのを待って、もう一度横顔を見つめてみる。
つまらなくなんてない。
彼の横顔を遠慮なく見ることができる機会なんてあまりないことだから。
普段の立ち姿はよく知っていたけれど、座っている時さえ姿勢がいい。つい、頬杖をついてしまう自分とは大違いで、そんなところもかっこいいなと、改めて思う。
伏し目がちな目許の、睫の長さだとか。形の良い唇だとか、ひとつひとつのパーツをじっくり見る機会があまりないのは、見つめた分以上に見つめ返してくる彼のせいだ。
手が止まって、考える時にほんの少し眉間に皺が寄るところは、少しだけ彼の兄に似ているかもしれないと、似てないと思われがちな兄弟の意外な共通点を見つけた。
こんな日も、たまにはいいかもしれない。
なんだか楽しくなってきてつい口許を緩めると、ほんの少しだけ彼も笑った気がした。
(2015.01.21)